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映画「怪物はささやく」:「宇宙SFもの」つながりのキャストで描くリアルな「紙の動物園」

まさにタイトル通り,大人になる機会を奪われてしまった子供を描いて哀切極まりないホラーとなった「永遠の子供たち」の監督A.J.バヨナの新作は,「永遠の母親」と呼びたくなるような美しい作品だ。
子供と大人,母と子,夢と現実,そして生と死。主人公の少年が経験する,幾つもの狭間に生まれる葛藤が,やがてひとつの希望に収斂していく物語は,映画館に集う「永遠の子供たち」のハートを強くグリップする。

難治性の病気を患う母を持ち,学校ではいじめに遭っている少年が,毎晩12時7分に部屋を訪れるようになった怪物から物語を話して聞かされる。怪物が三つの物語を語り終えた時,新たな物語を語る役目を任された少年が語ったのは,母についての思いだった。

展開そのものはお伽噺であり,リーアム・ニーソンが声とモーションを担当する怪物の造形も含めて,作品全体は典型的な「ファンタジー」と言って良いフレームを持っている。そこに次第に悪化していく母の病状,愛情があるのに何故かそりが合わない祖母とのやり取り,視線の嫌悪感以外に理由もなくいじめを繰り返すグループ,更に少年の夢に何度も現れる,教会が崩れ落ち,墓地の地面が地割れを起こすシークエンスのリアルさといった要素が加わることで,単なる「ダークなファンタジー」に留まらず,複数のフェイズの境界線上でバランスを保とうと必死にもがく少年の危うくも健気な姿を浮き上がらせることに成功している。

主要な登場人物四人のキャスティングが見事だ。常に諦念と忍耐と希望が交叉する主人公を演じたルイス・マクドゥーガルの巧みさ,まるで「エイリアン」のリプリーの芯の強さを孫に受け継がせようとするかのようなシガニー・ウィーヴァー,「スター・ウォーズ」のクワイ・ガン=ジンを想起させる包容力に富んだ声を聞かせるニーソン。いずれも個人の力ではどうにもならない大きな運命を意識しつつ,現実と自分の思いに向き合いながら生きていくことの困難さと尊さを謳い上げて見事だ。

そして「スター・ウォーズ」スピリットを継承するフェリシティ・ジョーンズ。母親役を演じるには若すぎるのでは,と途中までは訝っていたのだが,逆に若い彼女が演じたからこそ,原作にはなかったというラストが,まるでケン・リュウの大傑作短編「紙の動物園」に重なってしまい,思わず落涙した。
★★★★
(★★★★★が最高)
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