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映画「ハドソン川の奇跡」:「奇跡」を追体験する奇跡

先日,録画したまま未見だったスタンリー・キューブリックの初期の傑作「現金に体を張れ」をチェックして,そのスピーディーな展開と硬質な描写に唸らされた。脚本にジム・トンプスン,撮影監督にルシアン・バラードという,後に名を成す実力派のスタッフを従えて,キューブリックがたったの85分間という短い時間に凝縮した犯罪空間は,実に魅力的で奥深いものだった。
当作が制作された1956年頃は,ノンクレジットで「半魚人の逆襲」などのB級作品に出演していたクリント・イーストウッドの監督最新作「ハドソン川の奇跡」も,「現金〜」と同様に何度か同じシークエンスを繰り返しながらも,96分というコンパクトな尺の中で,実に豊かな映画空間を創り上げている。物語を語るために必要な最小限のカットを頭の中でしっかりと整理することによって,アップや思わせぶりな長回しなどに頼らず人物の内面を抉る。ジャンルは違えど巨匠の業には相通じる水脈が存在している。

バードストライクによって両翼のエンジンがストップしてしまった旅客機を,最寄りの空港に着陸させるか,それともハドソン川に着水させるのか。とっさに取った機長の判断を「墜落させた」と断罪する運輸安全委員会と,サレンバーガー機長,愛称サリー(原題)は,公開の聴聞会で対決することとなる。
物語の核心は一見,航空機の操縦システムとシミュレーション装置という高度に発達した工業技術と,どんな局面でも必ず発生する「人的要因」を踏まえた人間の判断と行動の,どちらが優れているのかという「対決もの」として収斂していくように見える。実際,シミュレーション装置とヴォイス・レコーダーによって,事故当時の状況がリアルに再現されるクライマックスは,手に汗握る超一級のエンターテインメントとして成立している。

しかしサリーが副操縦士(アーロン・エッカート,適役)と力を合わせて窮地を脱する状況を見て,サリーが初めて飛行機を操縦した時に授けられた「笑顔を忘れないことが大事だ」という教えを忠実に守り,正しい判断と行動で乗客を救ったことを知っている観客にとっては,真相が明らかになっていくスリリングな過程よりも,人間がなし得る想像を超えた行為の果てで,「関わった人,全てによる偉業だ」と感謝を捧げるサリーの姿こそが,生きる希望そのものとして胸に深く刻まれたはずだ。86歳の監督による,奇跡にほかならない。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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