池のち川、ときどき山歩き

気の向くままに水辺を巡って、普段は目にしないけれどひっそりと生きている生き物たちを紹介していく。そんなブログです。

虫の楽園、与那国の旅 その1

2017-05-20 20:00:00 | 旅行
 与那国島へ行こう。
 
 虫の寝息が雪を降らせる、そんな二月半頃の事。唐突に訪れた予期せぬ衝動が、ぼんやりとした日常の中私へ襲い掛かってきた。
 『与那国へ行かねばならない』――そう、激しく胸がざわつくのだ。天啓の様な悪魔の誘惑、とでも例えればいいだろうか。与那国へ行け、与那国へ行けと、何者かが私を急かすのである。
 始めは幻覚だと思い、胸の内に仕舞い込んでいた。しかしソレは日々を経るごとに勢いを増していき、いつしか私の正気を蝕むまでに巨大なものへと成長を遂げていた。
 そして気が付いた時には、メロスが己が内に渦巻く激おこの波に従うまま邪知暴虐の王へ単身丸腰で食って掛かった時の様に、私は飛行機の空席をポチっていた。
 メール欄を見渡せば、既にレンタカーの予約までもが済んでいる。荷物だって完璧だ。資金に不穏な影は無く、私の発射シークエンスは既に完了していたのである。

 誘惑の悪魔め、今すぐ飛行機をキャンセルしろ――! そう心の中で抵抗するも、時既に遅し。私の荷物は飛行機の中へと吸い込まれ、必死の抵抗の末に自我を取り戻した頃には、もう真夜中の大空を飛行している最中だった。

 4月24日。昆虫の楽園与那国へ向かう旅の祝砲が炸裂した瞬間だった。

 

 時は進み、25日の朝。某ファーストフード店の首を苛ませるソファーで一晩を明かした私は、すぐさま石垣行きの飛行機へ乗り込んだ。私の最寄空港だと、この時期は石垣直通便が出ていない。なので一度那覇を跨いで向かう必要があったのである。
 飛行機へついた私は、タクシーを拾うと一直線に港へ向かった。
 与那国行きのフェリーは、一週間に火曜と金曜しか出ていない。つまりこの日を逃せば最後、私は復路便が来る土曜まで、空港にて体育座りをしなければならなくなるのだ。そんなのは御免被る。一度も与那国へ行った事が無いが故に生じる焦りもあってか、バスを選ぶ選択肢は無かったのである。



 フェリーよなくに。コワモテなおじさま達が乗客の多数を占めていた。

 無事与那国行きのチケットを購入し、船へ乗り込んだ私は倒れる様にベッドへ伏せた。マク●ナルドのソファーが、私の想像以上に体を苛ませていたのである。
 そして目を開けると、なんと与那国島へ到着しているのではないか。与那国へ行った者からの話によれば、これでもかと揺れて安眠を妨げるのでゲロ船の愛称で親しまれているとの事だったので、なんだか拍子抜けした気分になる。
 まぁ気分が良いに越したことはない。ポジティブに言い聞かせつつ、私は無事与那国の土を踏みしめてレンタカーを借りる事が出来た。
 今のところは順風満帆だ。天気が今にも癇癪を起しそうな点を除けば、実に良い出だしである。
 貴重な時間を一分一秒も無駄には出来ない。私は車を走らせ、予め予定しておいた水辺へ向かった。
 
 途中、山間(山と言うより丘だが)を流れるコンクリート水路を発見する。植生は無いが底に泥が堆積しており、水は僅かしか流れていないものの、しかし安定して供給されている普通の水路だ。



 なんだかセスジゲンゴロウの匂いがしたので、車を止めて覗き込んでみる事に。
 すると、いるわいるわ。小さな影が四方八方に泳ぎ回っているではないか。
 ドラァッ!! と網を間髪入れずに叩き込む。底の泥ごと掬い上げ、私は与那国住民第一号、タイワンセスジゲンゴロウと対面を果たした。


 タイワンセスジゲンゴロウ【Copelatus tenebrosus】

 ホソセスジを思わせる漆黒の体躯である。ド普通種であるらしいが、与那国の虫に変わりはない。島旅を始めてものの30分も経たずに水昆を見る事が出来たので、私の気分は絶好調へと上り詰めた。端的に言うとハイである。
 これは初日に大物を掴むのも時間の問題か――――調子に乗った私は、意気揚々と車を走らせて行った。
 虫の楽園、与那国島。まだ見ぬ虫を求めて、私の旅は始まったのである。




 スコールが島を襲い、身動きが取れなくなったのは案外直ぐの事だった。



【その2へ続く】
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