映画とライフデザイン

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映画「海よりもまだ深く」 阿部寛&樹木希林

2016-06-12 06:46:27 | 映画(日本 2015年以降)
映画「海よりもまだ深く」を映画館で見てきました。


阿部寛主演、是枝裕和監督の新作が気になっていたが、ようやく見れた。元妻に未練たらたらのできの悪い作家くずれの物語で、大きな衝撃的な出来事があるわけではない。ギャンブル好きで夫婦関係をたたざるを得なかった阿部のダメ男ぶりが絶妙で、その母親である樹木希林がかなりアドリブが入っているんじゃないかと思わせるセリフを語っていく。いずれもうまい。さりげないセリフに味わいがある。

15年前に文学賞を一度獲った売れない作家の長男・良多(阿部寛)は、今は探偵事務所に勤めている。団地で気楽な独り暮らしをしている母・淑子(樹木希林)の家に行き、収納をほじくり出し金目の物を探して質屋に持ち込んで金策をしのいでいる。元嫁・響子(真木よう子)はギャンブル好きでふらふらしている良多に愛想を尽かして離婚した。良多は11歳の息子・真悟(吉澤太陽)の養育費も満足に払えないくせに元妻に未練たらたらだ。それでも響子を張り込みし、彼女に新しい恋人ができたことを知ってショックを受ける。


ある日曜日、良多と真悟が定期的に会うことになっている日だった。相変わらず、養育費が支払えない良多だったが、子供のために野球のスパイクをかったあと、むりやり母・淑子の家に連れて行った。響子が迎えに来たが、台風が強くなり、暴風雨で帰れない状態になった。団地の中で4人は一つ屋根の下で一晩過ごすことになる。


「歩いても歩いても」は同じ阿部寛と樹木希林のコンビで、無職になった主人公阿部がある夏に帰郷したときの日常を描いた非常に味わいのある映画であった。流れるムードはその映画と似ている。とてつもない事件が起きるわけではない。離婚した妻が偶然夫の実家に泊ってしまうということは、そうはある話ではないけど完全に日常を逸脱しているわけでない。

そんな状況の中での阿部寛と樹木希林の動きを楽しむ映画なんだろう。是枝監督が28歳まで過ごしたという清瀬の団地での映像がほとんどで、狭い団地の部屋で大柄な阿部寛が窮屈そうに演じているのがいい。

1.阿部寛
今回の阿部寛はダメ男である。ある文学賞を受賞したけど、その後泣かず飛ばずで気がついたら探偵業をしている。おそらくはギャンブル好きで、働いた給与も全然家庭に入れなかったのであろう。愛想を尽かさせて妻と息子は家を出ていってしまう。でもその妻に未練たらたらだ。
探偵業といっても、依頼人から妻の素行調査を引き受けて、浮気の現場をおさえた後にその写真を妻に持参し金をゆするなんて悪いやつだ。高校生に対しても同じようなゆすりをしている。真面目な人ならその不良ぶりに見て気分悪くする人もいるだろう。でも何か単なる悪とちがうムードがあるんだよなあ。


ゆすったお金を競輪場にいって、もっと増やしてやるとばかりに賭けてしまい外れて競輪選手に罵声を浴びせたり、妻が今付き合っている男を探偵業の業で見つけ出し、こっそり追っていくシーンなどあーあと思ってしまう。台風できっと帰れなくなるだろうと予測しながら息子を実家に連れていくなんて気持ちはわからなくもない。でも何やっても夫婦関係の修復は駄目なものは駄目である。どうやっても逆転しない。最後までそんなシーンが続き、ダメ男に徹しているのもいい感じだ。


2.樹木希林
夫に死に別れて、独立をした息子と娘が残った。めったに帰ってこない息子が金がないので、金目のものがないかと実家の押し入れの中を物色している。それを見て母はあんた金がないんでしょうというが、そうでないと言い張る阿部寛だ。調子に乗って母親に一万円札を小遣いとしてあげてしまう。でもそのお金は阿部寛が姉の小林聡美からせびったものだ。嬉しくなった母が姉に電話をしてばれてしまう。姉に呆れられる阿部寛。そんな逸話が続いていく。


元夫の実家に連れられて行った息子を迎えに行き、本当はすぐさま帰ろうとしたのに風雨がキツイ。絶対イヤなのに元姑は盛んに泊まっていけとうるさい。そもそも離婚していないとしても、こういう時、女が夫の実家に泊まりたがらないのは自分も経験あるのでよくわかる。でもタクシーもすぐさま来そうもないので、元嫁はついに泊まることを決断する。そこで樹木希林が大喜びだ。その後のパフォーマンスが妙に現実味がある。 同じような場面を経験したことがあるので、亡くなった母を思い出し樹木希林の動きが健気な気がした。

もう一度戻ってほしい気持ちが強い姑が戻れないかと元妻に懇願するシーンもどこかつれない。元嫁に帰ってほしい夫の母の気持ちがにじみ出ている。元妻には何の悪いところがないけれど、元夫だけでなく姑にまで言われるのはつらいなあ。

ここでも樹木希林の演技は神がかりの粋に達しているような気がする。コメディタッチが強い渥美清の演技がアドリブのセリフを織り交ぜて、境地に達したのと同じ類いだ。

そしてテレサテンの歌がしみじみとラジオ放送の中流れる。なんと情念のこもった歌なんだろう。香港のマギーチャン主演「ラブソング」の時に感じた同じような衝動を感じながら静かなラストを体感した。

(参考作品)
歩いても歩いても
是枝監督&阿部寛&樹木希林の名コンビ

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