マガジンひとり(ご訪問ありがとうございます。年内に閉鎖を予定しています)

書肆マガジンひとりとしての小規模な同人活動を継続します。

Bewitching Bygone Baroque — 幻想のあめりか

2017-08-20 21:36:11 | 音楽
半分くらい見て消去してしまったアメトークの回で「アメリカかぶれ芸人」というのがあった。おおむねつまらないながらも爆笑したところがあって、メイク術や体型維持など美容の知識と実践が売りの女芸人シルクにとって、憧れのアメリカのイメージは往年のドラマ『奥さまは魔女』なのだという。

日本では近年リメイクもされたが、その作品世界やシルクの芸風と相まって、他のメンバーや視聴者とのギャップが浮き彫りとなる、愉快な瞬間だった。昔は地上波で米国産ドラマをいっぱいやってたな。

そしてこのところ、↓に挙げたような本を並行して読む中で、奥さまは魔女と再会。高スペック男を選んで、あるいは自分を選ばせるよう仕向け、専業主婦となって、住宅ローンや小遣い制で夫を縛り、子どもに夢を託し教育ママと化して塾やお稽古事に通わせる、深尾葉子さんが「タガメ女」と命名したような、わが国のある種の女たちの源流の一つが『奥さまは魔女』のサマンサだというのだ。

庭付き一戸建てで、広告代理店勤務の「ダーリン」と幸せに暮らす、エプロン姿のかわいい奥さん。主婦だが、魔法を使える。あるいは『シンデレラ』『アナと雪の女王』といったアニメにおいても、女は恋愛でも経済でも勝利を得なければならないとの刷り込みが行われ、とっくに破綻した高度成長モデル=正社員の夫が献身的に働いて妻子を養いマイホームや家電品を買う=の延命に寄与しているのだとか


日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体 (講談社+α新書)
深尾 葉子
講談社

ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで
大和田 俊之,磯部 涼,吉田 雅史
毎日新聞出版



タガメ女は年一回必ずディズニーランドへ、そして搾取されるカエル男は起業家などが書いた自己啓発ビジネス本を好んで読む、いずれも支配と拘束でがんじがらめの現実を美化し、また逆に逃避するファンタジーの一種なのだという。

米国の音楽は基本ファンタジー=共同幻想として作られるという見地で研究しているのがラップの本の共著者・大和田俊之氏だ。この幻想は、白人と黒人の音楽双方に源流を持つロックの時代には、60年代に一時期ビルボード誌でR&Bのチャートが総合チャートに統合されて姿を消したように、人種や階層の統合と調和を反映したものとなる。メンバー中1人しかサーファーではないビーチ・ボーイズがサーフィンの歌を歌うような、人工的なファンタジーより、公民権運動、ベトナム戦争など、より現実を反映した、怒りや葛藤を感じさせる音楽が優位となる。

70年代から一部の黒人音楽にみられたSFやオカルト志向、また90年代には黒人のギャングスタラップを白人の若者層が映画的な娯楽として消費する一方で、郊外の若者のやり場のない怒りを反映したグランジの動きも起り、虚実の入り混じるファンタジー的な音楽のあり方は、統合から分裂・拡散へと方向を転じた。

差別主義者の老白人が、東南アジア系の若者に自動車整備の技術を教える映画が、共和党強硬派支持のクリント・イーストウッドによって作られる時代。黒人やヒスパニックやアジア系が不可視化された「古き良きアメリカ」には、もう戻れない。Bewitching Bygone Baroque = 魅惑するいにしえのバロックは、既に効力の切れたファンタジーを再現する一つの試みである。ここに挙げた音楽はやや逃避的で、広がりを持たなかった。おそらくボブ・ディラン、グレイトフル・デッド、ランディー・ニューマン、スティーリー・ダンといった面々には、もっと違うアメリカが見えており、後のオルト・カントリーやアメリカーナーと呼ばれる動きも喚起したことだろう。後者はトランプ支持層の怒りや迷走を視野に収めているに違いない—





iTunes Playlist "Bewitching Bygone Baroque" 113 minutes
1) The Beach Boys / Surf's Up (1971 - Surf's Up)



2) Sonny & Cher / The Beat Goes On (1967 - In Case You're in Love)



3) Sufjan Stevens / Pittsfield (2006 - The Avalanche)



4) Frank Sinatra / For a While (1970 - Watertown)



5) Martin Denny / Quiet Village (1959 - Quiet Village)



6) The Beach Boys / Heroes and Villains (1967 - Smiley Smile)



7) Gary Lewis and the Playboys / She's Just My Style (1966 - She's Just My Style)



8) Foxygen / San Francisco (2013 - We Are the 21st Century Ambassadors of Peace & Magic)



9) Frankie Valli & the Four Seasons / Wall Street Village Day (1969 - The Genuine Imitation Life Gazette)



10) The Beach Boys / God Only Knows (1966 - Pet Sounds)



11) Boz Scaggs / My Time (1972 - My Time)



12) Chet Atkins / Boo Boo Stick Beat (1960 - Teensville)



13) Michael Franks / Eggplant (1976 - The Art of Tea)



14) Klaatu / Calling Occupants of Interplanetary Craft (1976 - 3:47 Est)



15) Lee Hazlewood / No Train to Stockholm (1970 - The LHI Years: Singles, Nudes & Backsides 1968-71)
16) The Beach Boys / Disney Girls (1957) (1971 - Surf's Up)



17) Nick DeCaro / Getting Mighty Crowded (1974 - Italian Graffiti)



18) Wondermints / Telemetry (1998 - Bali)



19) The Rascals / My Hawaii (1968 - Once Upon a Dream)
20) The Beach Boys / Pet Sounds (1966 - Pet Sounds)



21) Gene Pitney / 24 Sycamore Street (1967 - The Gene Pitney Story)



22) Dan Fogelberg & Tim Weisberg / Lazy Susan (1978 - Twin Sons of Different Mothers)



23) The Mamas & the Papas / Dedicated to the One I Love (1967 - Gold)



24) Steve Miller Band / Seasons (1969 - Anthology)



25) The Beach Boys / Cuddle Up (1972 - Carl and the Passions: So Tough)



26) The Cowsills / A Time for Remembrance (1967 - We Can Fly)



27) Dennis Wilson / Thoughts of You (1977 - Pacific Ocean Blue)



28) Foxygen / America (2017 - Hang)
29) The Beach Boys / 'Til I Die (1971 - Surf's Up)



30) Lou Christie Sacco / Paint America Love (1971 - Paint America Love)


♜Top Picture - Linda Nelson Stocks

コメント    この記事についてブログを書く
« Top 20 Hits of 19-Aug-2017 | トップ | Top 20 Hits of 26-Aug-2017 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事