wadyのケインパトスクロウへの道

Twitter(https://twitter.com/wady_anizya)の補完、雑記物置き場として。主に創作関係

空を望む少女 第一章 第三話 前編

2016-10-19 03:57:53 | 小説類
空を飛んでいる時、何を考えているのかと悟に聞いたことがある。そしたらすごく冷めた顔で(まあ、あれが辛気臭い顔なのは今に始まった事じゃないけど)、任務のこと以外ないでしょう、逆に先輩は何考えて飛んでるっていうんですか?なんて返してきた。でも、それって要するに航法装置の監視とか、任務手順のあれこれとか、機器動作チェックとかそういう類のものだろう。
つまらない事この上ない。この時代の単座戦闘機なんて乗ってるくせに、機械にできることは機械に任せて、我々パイロットにしかできない何かを追求しようという気概がない。そしてそんなものは残念なことにそう多くないから、結局余計なことをせずに不測の事態に向けて英気を養うことが最優先事項になり、その時に何を考えるかを聞きたかったのだ。
雑念を払うために音楽を掛けるという手もある。どうせ音から得られる情報も、あったとして悟からの通信くらいだ。
任務飛行は退屈な時間の連続。現代のパイロットは昔ほど格闘戦やらなにやら激しい機動をする機会が少ない。とにかく少ない。
私たちの任務と言えば、基本的には偵察任務、たまに強攻偵察任務、もっとたまに攻撃任務、そして壊滅的にまれに拠点防衛任務となるだろうか。最後の防衛戦は、はっきり言ってほとんど負け戦。撤退戦。敵の猛攻撃のさなか、一人でも多くの人員と一機でも多くの機材を如何に運び出すかという戦い。

私も、大規模な撤退戦に一度だけ参加したことがある。ひどい戦いだった。よりによって民間人居住区直掩の基地が襲われたのだ。
基地にある輸送機では機材も避難民もとてもじゃないが運びきれない。戦争初期ならまだしも、粒子雲展開後に人類側の大型基地が急襲された初めてのケースだったから、ろくな前例も、当然対策も存在しなかった。現場の人員がその場の判断で、死に物狂いで抵抗した。まだ半人前だった私もスクランブル発進した。炎に包まれ煙を上げる滑走路の中、フルスロットルで急激な機首引き起こし。高度を少しでも稼いだら捻って水平飛行。その後安定して飛べるかは推力頼りの運次第だ。
目の前で人や物を満載した巨大輸送機が火線に絡められ翼をもぎ取られるのを見た。機首から落ちた機体が砂糖細工みたいに潰れて、遅れて爆発した。地上基地施設が次々と爆発するのを見た。膨れ上がった屋根が内圧に耐えかねて千切れとび、コクピットグラス越しに熱波を感じた気さえした。そして、隣を飛んでいた戦闘機が散るのを見た。パイロットの脱出さえかなわなかった。
悟は、ああいった戦いを知らないのだ。いくらスロットルを押し込んでも間に合わないものがある。いくら手を伸ばしても届かないものがある。

私たちの戦争相手、彼らの話をしていなかった。
といっても話せるようなことはほとんどない。私たちの敵が何なのか、実は未だにはっきりしたことは分かっていないから。
彼らは突然現れる。降った様に湧いた様に、大地に「巣」と呼ばれる拠点を作り、内部で戦闘機と攻撃機を生産する。放置しておくと「巣」は要塞化、迎撃態勢が整うと簡単には手を出せなくなるので、その前に周囲の人類基地から戦力を集めて攻撃することになる。
置碁と同じで、この戦いは既に整備された拠点を有する人類の方が優勢。彼らはこちらの勢力圏内に突入した上でなんとか収まらなければならない。だが、実際長期的にみると敵の要塞は少しずつではあるが増えている。その理由は簡単で、幾ら状況が有利でも一つ間違えると被害は出るし、いつでも完璧に初動を叩けるとは限らないからだ。無線封鎖状況で連携を保つのは難しいから、どうしても齟齬が出て、その場の現場判断で修正せざるを得ない。

こう言うとお分かりと思うが、戦闘自体は人類が常に押しているのに、戦略面としては時間がたてばたつほど人類が苦しくなっていく。趨勢を握るのは、湧き続ける「巣」に対して根本的な対策を発見できるか否かだ。そして、人類はこの数十年それを見付けられていない。

「いっそのこと対話でも試みる、位かしらね」

対話。意思疎通。
同じように飛ぶ戦闘機械を介して、爆弾や砲弾、ミサイルを交換する敵意のぶつけ合いなら既にやっている。
この戦争はそもそもどうやって始まったのだろう。半世紀前に、いったい何があったのだろう。残念ながら当時の記録はほとんど残っていない。

悟からの信号通信が入った。
『目標発見。「巣」はステージ1と判定。確認を求む』
幸運だ。ひとまず頭は抑えた。
「確認した。情報収集を開始する。偵察機動、周回飛行パターンBを取れ」
見つかると厄介だが、ステージ1ならまだ最低限の迎撃設備しか無いはずだ。私はAIに位置情報の記録を命じる。遠距離観測ポッドを起動。いつもの手順、いつもの任務。

その時だった。ふと違和感を感じたのは。何かに、見られているような。
「観測中止。緊急離脱。高度上げるよ」
私はスロットルを押し込んだ。感圧式の操縦桿を引く。悟もすぐに翼を翻す。
粒子が濃い高度へ上昇しながら、警戒体制に移行。
「巣」におかしな動きはない。気のせいだろうか。いや、よくない感じがする。
機外を目視確認する。その視界の端、黒雲の切れ目。白い影が一瞬横切って消えた。
「敵機確認」
速い。見たことないレベルかもしれない。
この辺りに既存の巣は無いはずだが、単独か。どのみち異常事態。考えるのは後だ。
「戦闘態勢。増槽はまだ捨てないで。振り切るわよ」
「了解」
一瞬早く高度を取ったこちらが有利だ。逃げるにも、万に一つ戦うにも。

対話は遠い。そもそも彼らと対話と言っても、彼らの何と意思疎通ができるというのか。彼らは意思を持っているのだろうか。

私は、操縦桿を握りしめる。まずはこれを切り抜ける。グローブの内が少し湿っていた。
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