wadyのケインパトスクロウへの道

Twitter(https://twitter.com/wady_anizya)の補完、雑記物置き場として。主に創作関係

空を望む少女 第一章 第二話

2016-10-12 03:28:40 | 小説類
僕と羽衣先輩のことについて話す前に、出撃形態というか僕らの勤務状況に関してお話しておく必要があるだろう。
出撃の際は単機ということはまずない。事前に適性、相性ごとにパイロット同士のペアが決められており、それを一単位として二機、あるいは四機で出撃することになる。
僕の場合は、これは余談だが、敬愛する羽衣先輩とペアを組んでいて、そこに至るまでにはそれはそれは色々と困難があったものだ。各種能力テスト、飛行戦技、座学などなど。ああ見えて彼女はとびきりのエースパイロットだから、相方に要求される適正たるや。その栄光の一方で彼女はなかなか手のかかる先輩でもあるので、そこまで努力した僕はまあ物好きな部類に入ることになるらしい。
閑話休題、この二機一組を基本単位とした出撃が中心なのにはいくつかの理由がある。
まずは通信手段に関係した問題。現在、世界の空は電波類を広い波長域にわたってことごとく散乱させてしまう探査妨害雲に覆われていて、一度出撃した戦闘機は極短距離通信用の指向性光通信を除いて外部との交信をほぼ遮断されてしまう。その為、一度何らかのトラブルに見舞われようものなら帰還率、生存率グラフは絶望的な急降下曲線を描き、そういうわけで何かしらのカバー手段、保険が必要になる。かくて古き良き、一つで信頼性に劣るなら二つ使ってしまえ、という理屈が発動したのが一点。(これまた余談だが、20世紀末、ジェットエンジンがまだ信頼性に今一つ欠けていた時代、艦載機が普通双発だったのはこの理由からだった。陸上機は別に単発で構わない。降りればいいし。だから、僕はF-35が単発だったのには猛烈な反発を感じたりしていて、実は初めて羽衣先輩と一対一で盛り上がったのはこの話題だったのだけれど、長くなるからこの辺にしておこう。)
次に、歴史的な事情。実は戦闘機が編隊を組んで飛行するのは伝統的なことなのだ。よほど乱戦になれば別だけれど、戦闘も基本二機一組で行う。飛行機が火器を搭載して戦闘に用いられるようになって百年と数十年程度経過した(とされている)が、その黎明期においてドイツ系では二機編隊、イギリス系では三機編隊が採用されていたとのこと。そして数々の戦闘経験を経て洗練されていくにつれ、結局効率の面から二機編隊が中心となっていったのだ。我ら遊撃戦闘機戦隊はこれに強く則った形となっている。
そして最後に、切迫した必要性だ。
僕たちの直面している戦況ははっきり言って悪い。刻一刻と迫る破滅に向け、残る力を温存しながら、その日を一日でも先延ばしにしようとしている。その上で任務を帯びて飛ぶということは、何らかの犠牲を前提としてでも成果が必要とされているということを意味する。
片方が盾になってでも、もう一機が任務を遂行すべし。いつしか二機で飛ぶということはそんな意味もついて回るようになった。それなのに

「死ぬために飛ぶなんてまっぴらごめんよ」

そんな状況下で言い切ってしまえる羽衣先輩に、僕は強く憧れた。一緒に飛びたいと強く思った。羽衣先輩にはそれを可能とする特異性がある。僕はそれが知りたい。

「悟、私とあなたで、この空を飛ぶの。たとえ誰だろうと、それを邪魔する奴なんていない。私が許さない」

一度だけ、羽衣先輩が張り詰めたような顔で言ったことがある。その時はまだペアを組んだばかりだったから、僕はただ頷くしか出来なかった。結局すぐにいつもみたいな先輩に戻ったけれど、この人は本音をいつも心の奥深くに隠して、素顔をあまり見せてくれないのだ。いつか、あの時の気持ちを聞いてみたいな、と思っている。

「先輩、司令がお待ちですよ。起きてください。」
時間になっても来なかった先輩の私室のドアを何度もたたきつつ、僕は思う。
確かに死ぬために飛ぶのはご免だ。精一杯飛んで、先輩と過ごして、いつかその日が来ても堂々としていられるだけの毎日を生きよう。

そして僕らは、今日も飛び立つのだ。鉛色の空に向かって。


「ぐぬおぁ!?」

扉の向こうからは先輩のよく分からない悲鳴のようなものが聞こえてきて、僕は小さくため息をついた。
まあ、いいとしよう。甘んじて司令に一緒に怒られよう。これもペアを組ませて頂いていることのおまけというか、義務みたいなものだ。
「ほらほら、先輩早くしてください」
それから身支度の間散々ドア越しに煽ってみたんだけれども、後でしっかり仕返しされたことは追記しておく。
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