wadyのケインパトスクロウへの道

Twitter(https://twitter.com/wady_anizya)の補完、雑記物置き場として。主に創作関係

空を望む少女 第一章 第三話 後編

2016-10-19 04:06:13 | 小説類
羽衣先輩は執拗なまでに雲中で方向転換を繰り返し、ランダムな進路を選択した。これでもし追跡されていたら、ここで戦うしかない。だが、恐らく最初の上昇で敵からの追跡は躱せていた公算が大きい。僕は背筋に冷たいものを感じた。敵機の存在など、全く気付いていなかったから。
羽衣先輩から通信が入る。
「高度を下げる。あなたは現進路を維持。何かあったら」
「分かってます。お気をつけて」
背面に入れて急降下していく羽衣先輩を見送り、僕は燃料のチェック。予定航路を迂回したため、燃料残量は帰還限界に近い。
何故自らの身を危険にさらしてまで敵の追跡に気を配ったかは、一重に人類側に残された唯一のアドバンテージに関係している。つまり、戦力の大部分が敵から隠せているという事。探査を妨害する雲に隠れてその拠点の位置情報を隠しているから現状は攻めに専念できているわけだ。よって、もし敵の追跡を振り切れなかった場合は撃墜するしかないし、それも叶わないなら編隊の内一機が囮となり残りを帰還させたり、さらに状況が悪い場合は自爆すら検討に入る。
敵に基地の所在が暴かれた時どうなるか。記録には当時最大級の基地が一晩にして消滅した、とある。多数の民間人諸共。その後、現在の接敵手順が一般化したのだ。戦闘で失われる機体よりも燃料切れで帰還できない戦闘機の方が多いという説さえある。うまく勢力圏内に不時着できれば救援も待てようが、それでも敵に見つかった場合はやはり自爆が推奨される。
彼らの正体は明らかになっていないのだが、一つはっきりしていることは人類の武器や機械を取り込んで使用している節があることだ。技術レベルは常に同等か、装備更新の分、人類が一歩前進していることが多いし、作戦レベルでもこちらは対抗策を立てやすい状況にある。ジリ貧なことさえ除けば、質的な意味で人類側は優位に戦えているのだ。
反対に言えば、その面で後れを取ると、この戦争は一気に敗勢に陥るだろう。

しばらくして、羽衣先輩の機体が上がってきた。近接して通信。
「振り切ったみたいね。帰還するわ」
「了解。羽衣先輩、あの機体」
「……基地に帰って詳細を分析してみないことには迂闊なことを言いたくないわね」
だって口に出したら本当のことになりそうだし。羽衣先輩は冗談めかして言ったが、やはり感じているのだ。あの機体は、おそらくこれまで交戦したどの機体よりも速かった。
以降、僕らは通信を介さず基地を目指した。勢力圏内に到達した時点で指向性の信号を発信。地形を確認しながらしばらく飛ぶと、滑走路が見えてきた。
「お先にどうぞ」
「あらご親切に」
旋回しながら、羽衣先輩がエアブレーキを展開する。ギアダウン。本来なら編隊着陸なのだが、今回は燃料の関係上、羽衣先輩から一機ずつ着陸することにした。
軸線を合わせ、機首上げ。機速をぎりぎりまで落とし、進入。
仕上げに迎え角をさらに大きく取り、舞い降りるかのように着陸、後輪を接地したまま機首上げ姿勢を維持して滑走路を駐機位置まで走る。この位置で羽衣先輩の着陸を見られるのは一つの役得だと思う。
さて、僕も行かねば。僕は操縦桿を傾け、旋回に移った。


「ご苦労だった」
エレベーターで格納庫に降りた僕たちを司令が直々に迎えてくれた。一足先に羽衣先輩がチェックボードを整備員に渡し、報告に向かう。見送った僕は、観測ポッドの取り外しと解析に同行することにした。
「ただならぬ感じだな」
僕の機体を担当してくれている整備員さんが話しかけてくれたので、チェックボードを返しながら返事をする。
「もしかしたら敵の新型かも」
「何だって?」
「どっかで試験機でも落とされたのかな」
もしそうでなかった場合。つまり敵が兵器の設計能力を獲得したのだとしたら。
いよいよ戦況が動き出すのだ。
それも恐らく悪い方に。



羽衣先輩の証言、観測ポッドの情報を統合した結果、あの白い機体はやはり敵側の主力戦闘機の強化発展型と推測された。だが、飛行が単独であること、純白に近いカラーリングに類例がない事から試作機や実験機の可能性もあり、ともかく今後の情報収集として最重要項目に挙げられることになった。
そして、僕と羽衣先輩は戦闘地区で最大規模の基地への伝令を命じられることになった。
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