wadyのケインパトスクロウへの道

Twitter(https://twitter.com/wady_anizya)の補完、雑記物置き場として。主に創作関係

APS-Crisis 第0話

2016-10-20 02:56:19 | 小説類
あの日、初めて彼と話した時のことを彼女はまだ鮮明に覚えている。
彼の機体は文字通りのワン・オフ機で、新米の整備クルーに過ぎなかった当時の睦未にはそれに触れる資格も機会も無かった。畢竟、彼との面識も無かった。
彼の乗る純白の勇ましい騎士のようなAPSと、寄り添う高貴な姫のようなAPSは対となって島の皆を守る戦力であり、象徴だった。
いつかそれを専属で整備してみたい、そう憧れていた。それだけの筈だった。
「ちょっといいか」
「は、はいっ、なんでしょう」
「少し聞きたいことがあって探していた。この論文についてだ。書いたのは君だな?部分的にはよくある防御システム構築論かと思って読んでいたが、被弾時の装甲制御理論が独特だ。仮稿のようだったから筆者から詳しく聞きたいと考えたのだが、詳しいデータや実装の見込みなどはどうなっているのだろうか」
それは彼女が実験的に、というよりほとんど手慰みに書き上げて、全島共有サーバーの深い領域に放置していた論文、というまでもない雑文だった。APSの装甲改造案の原理とその次世代機への実装の展望について。だれでも閲覧できる形にはしておいたが、まさか彼が直々にそれについて話しかけてきたという現実に、半分パニックになった。
「あ、あの。被弾時の被害軽減の、実験データが元で。い、いえそもそもは至近における遠距離武装使用時における実験であくまでそれは副次的なものだったんですけど……」
彼女があたふたと話すのを、彼は時々控えめな確認を挟みながらも真摯に聞いてくれた。
そのうちに、目の前にいるのが雲の上のヒーローだという実感が薄れ、後半は彼女も滑らかな説明をすることができた。それを待っていたかのように合わせて彼も突っ込んだ意見をぶつけてくる。
「現状では機体の防御力の底上げ、効率化に過ぎませんが…。最終的には、高エネルギー弾、大口径実体弾を不随意に防御するシステムを目指す構想です」
「具体的な素材が開発されないうちは理論実証の為だけに専用の機体を作るのは難しいかもしれないな。外付けの実体シールドとして仮設する形か?」
「そうですね、まずは小規模なものをAPS表面に装備できたらと。むしろ問題は熱処理の方で…」
一方向だったやり取りはだんだんと本格的なアイディア検討と化した。
いつしか時間を忘れて話し込んでいた二人は、やや険のある声に飛び上がった。
「カナタ!こんなところにいた」
「か、カレン。そうか、約束の時間か」
「とっくに過ぎてるぞ、このバカ」
気付かずに白熱していた議論に頭脳が回転しすぎていて、状況の把握に遅れていた彼女を尻目に、エースパイロット雪江かなたは相方のカレンに今しがたのアイディアをかいつまんで説明していた。
「んー、実用性がイマイチ見えてこないよ。だってAPSの装甲は現状で20mmくらいなら傷もつかないし、私たちの機体なら頑張って30mmは防げるでしょう」
「120mm砲や大出力レーザー砲まで防げると言ったら」
「は?そんなの大口径、戦闘中のAPSに照準合うわけないじゃん」
「近接接射時だ」
「え、APSに搭載出来る火力には上限があるし…」
「と、なると。いかなるAPSの射撃も無効化できる無敵のAPSが出来上がるんじゃないか」
「ありえない……」
「と、この子が提唱した」
「ホントに?」
水を向けられて彼女は慌てて補足した。
「さ、最終的には、です。今は素材が無いから射撃に対する防御の効率化に過ぎません。それにお二人のような近接切断系の武装に対しての効果は薄いですから、無敵なんてことは……」
「でも、ワタシ達みたいなクローズ・ファイターにはありがたい話ってわけね」
カレンはいつのまにか真剣な表情になっていた。
「なかなか面白い話だな。私のレールガンも防げるのだろうか、ジョルジュ」
「僕のスペシャルな弾頭はどうなんだろうね、ローラ」
「かなたが遅いからみんなで来ちゃった」
「かなたさんったら、ランチの時間が終わってしまいますわ」
どやどやとやって来る少年少女に、彼女自身というより周囲が驚き立ち止まる。全員がそれぞれの能力に合わせた専用機に乗っているトップパイロットたちだった。
かなたは苦笑いしながら立ち上がった。
「さて、そろそろ行かなくては。興味深い内容だった。ええと、時丘…」
「も、申し遅れ失礼しました!APS開発課装備係整備C班所属の時丘睦未三等整備員です」
「驚いた。あなた整備員なのね。しかも、下っ端も下っ端がどうしてこんな論文を」
「えと、趣味で装備色々いじるのが好きで。それにまだ新米ですし」
「ワタシから口添えしてあげるから装備班に転属したらいいのに」
「ふむ」
かなたとカレンの視線に、彼女は赤くなった。
「そんな、本当にただの趣味なんです。機械いじりが好きなだけの私が本職の人と仕事なんて、申し訳ないです」
「そのレベルで趣味だと本職の方が裸足で逃げ出しそうね」
あきれるカレンの隣で考えていたかなたが口を開いた。
「ではレポート提出だ。俺からマザーに正式に要請を出そう」
「へ?」
「時丘、明日までに先ほどの話をレポートにまとめてくれ。何、論文を少しブラッシュアップすればいい。形式は問わない」
「は、はい」
「では、またな」
そう言って、かなたはあっさりと去った。ウインク一つ残してカレンも続く。他のトップガンも。
取り残された睦未に、同僚が声をかける。
「だ、大丈夫?」
「なっちゃん……。今夜寝れないかも」


そして彼女のレポートは島を統括するAI、マザーに認められ、いくつかの審査を経て時丘睦未三等整備員は装備A班所属の二等技術員になっていた。
それからという物、毎日が夢の様だった。高いレベルの同僚とアイディアを出し合い、専用のリソースを持ち、アクセス権限も大幅に上がった。そして何より、パイロット達、すなわちかなたやカレンたちの要望を形にしていく作業は本当に楽しかった。
切っ掛けとなった新型装甲は、マテリアル的な面で中々進展しなかったが、時という事もあり娯楽が殆ど無い生活も開発作業に没頭する彼女には関係が無かった。
いつしか彼女は幾度の昇進を経て、技術系最上位にまで昇っていた。気弱な部分もあり、実務的なことは部下に任せ、もっぱらトップパイロット達のサポートの役回り。

かなたとも親しくなり、様々な分野で忌憚のない議論を交わすうちに、お互いに強い信頼関係を築くようになっていたが、睦未としてはカレンの存在もあってそれ以上を望むことさえなかった。だからだろうか、彼はたまに睦未の居室にふらりと立ち寄ると、様々な懸案事項について意見を求めたりしてきた。
「俺達はDr.Carrotに対するほとんど唯一の対抗策として世界から暫定的に存在を許されている。だが彼女は俺達の創造主でもあるわけだ。やはり世界からの疑いの目は厳しい」
「関係ありません。もっと頑張ってやっつけてしまえばいいんです。それで私たちが本気でセカイを守りたいんだって証明できるでしょう」
そう簡単なものでもないと分かったうえで、睦未は言った。
「そうだな、早くあの困ったマッドサイエンティストにお仕置きしてやらねば。それからなら武装解除でもなんでも応じてやるか」
そんな時、彼は切実に呟いたものだった。早くパイロットを辞めて、仲間たちと平穏に暮らしたい、と。だが、彼らの高い戦闘力や技術が世界に与える影響も考慮した時、武装解除してお終いと言う訳にもいかないのだった。
そして、やはり彼の想いは裏切られることになったのだった。



「かなたさん、カレンさん、応答してください。かなたさん、カレンさん」

Dr.Carrotとの抗争の最終局面。雪江かなたとカレン・H・カーペンターの両名は敵陣最奥にて、Dr.carrotが操る超巨大APSと交戦、これを撃破した。これにて作戦は終了し、つかの間の平穏と戦後処理が行われるはずだったのだが、疲弊しきった島とパイロットたちは謎の勢力によって急襲を受けた。島を襲った部隊はパイロットたちによって辛うじて撃退されたが、博士の拠点に侵攻していた部隊は徹底的な波状攻撃により大打撃を受けた。
そして、最深部で敵部隊と交戦し、友軍の脱出を支援した二人は遂に帰らなかったのだ。というより、この二人が狙われたのでは、と後の分析班は結論を出すことになる。
混乱する島を纏めたのは、セシリーだった。狙撃兵の彼女は彼の副官としてやはり博士の拠点に出撃していたが、残存部隊を率いて帰還を果たしていたのだ。
彼女は、慕っていた人と親友の死にも涙を見せず冷静に指揮を執った。
「皆さん、島を脱出します。大丈夫、かなたはこの時にも備えていました」
AI制御で航行できる巨大APS潜水母艦に持ち出せるものを持ち出し、睦未は残される装備や研究成果を徹底的に破壊する監督作業に従事した。全ての思い出が詰まった場所を機械的に処理していくのに忙殺され、島を失ったこと、大切な人々を失ったことの実感が襲ってきたのは出航からしばらくたってからだった。

生き残った専用機持ちパイロットは4人だった。
青い狙撃機体、セシリー・A・ウッドワルド。
黒い砲撃機体、ローラ・V・ハインツェルマン
橙の実体弾機体、丁 春蘭
黄色のエネルギー弾機体、ジョルジュ・S・ドリッシ
それに彼女が加わった五人とAIが意思決定を担った。睦未はかなたの言葉を思い起こさずにはいられなかった。どうしたら彼の願いは、無念は晴らされるだろう。まずは安定だ。ひとまず指導部は一致して身を寄せる場所を探した。結果、APSの脅威に脅かされるアフリカ連合と傭兵契約を結び、潜伏生活が始まった。
いったい島を襲ったのは何だったのか。武力協力を条件にアフリカ連合に匿われた彼女たちはそれを探りながら様々な防衛任務に関わった。やがて、手掛かりが判明していくにつれ、島の残党の中から、主にパイロットを中心として、かなたとカレンの敵討ちの機運が高まっていったのは必然だったかもしれない。そして、睦未はそれを止めることが出来なかった。

そして、再び戦いの火ぶたが切って落とされることになった。
彼と彼女のいない世界で、皆の平穏を祈った彼の心を裏切ることになろうとも。
(続く)
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小説
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