がじゅまるの樹の下で。

*琉球歴女による、琉球の歴史文化を楽しむブログ*

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テンペスト行脚~三重城~

2009年08月15日 | ・『テンペスト』行脚

■三重城(みーぐすく)■ 

真鶴は女である最後の一日を三重城の頂で海を眺めて過ごすことにした。

那覇港の入り江のほとりにある三重城は航海安全を祈願する王国の拝所である。

真鶴は簪を抜き、黒髪を潮風に泳がせた。

「真鶴、真鶴、真鶴、ごめんね。
もう呼ばれることはないのね。

こんな私でごめんね真鶴。
私は男になるけど許して真鶴。
きっとあなたに誇れる人生にするわ。

だから涙を止めて真鶴…」

真鶴は自慢だった黒髪を切り落とした。

真西風吹けば花髪別れ 白鳥の羽の旅やすゆら

真鶴は船を追いかける北風の中に髪を投げ捨てた。

一篇の琉歌を手向けて。

 


あけ雲とつれて慶良間はいならで あがり太陽をがで那覇の港

「いやあお恥ずかしい。聞かれてしまいましたか」

「琉歌が詠めるのですね」
「こんな素晴らしい琉歌ははじめて聞きました。
本当に景色が言葉に変わったようです」

「褒めすぎです。王府の役人のお方ですか?」

「評定所筆者主取の孫寧温と申します。あの・・・」

「私は御仮屋の朝倉雅博と申します」

自分は一体どうしたのだろう。
さっきから体が思うように動かない。
自分はこんなに不自由な人間だったのか。
それどころか胸の中が疼いて息がきれそうだ。

――私、どうしよう……。

「寧温、急げ。船が出るぞーっ!」

朝薫が三重城にいる寧温を迎えに来て、はっと息を呑んだ。

頂にたつ2人がまるで恋人同士のようにみえたからだ。

伏し目がちに笑った寧温の表情を見て、
朝薫もまた胸を絞られるような疼きを覚えた。

「まさか、ぼくが……。寧温を。まさか――?」

 

「あれはもしや?」

さっきまで人気のなかった三重城の頂に人影が立った。
頂にいるのは愛しいひとではないか。

海を挟んで見つめ合うふたりが互いの視線を探す。

「雅弘殿ーっ!」

と同時に雅博が三重城の頂上から叫ぶ。

「孫親方ーっ!」

潮騒に消されて互いの耳には届かない。

それでも2人は互いの名を呼び合った。

「雅弘殿、好きでした。ずっとずっと好きでした。
ああ、真鶴になって戻りたい。
船を、船を止めて。
私は斬首されてもいいから、都に戻りたい」

寧温の指が三重城に立つ雅博の袖をつかみたくて宙を掻く。

「雅弘殿、雅弘殿。私はきっと王宮に戻って参ります」

三重城に登て 手巾持上ぎりば

早船ぬなれや 一目ど見ゆる

 

「テンペスト(上)」より

 

    

三重城はテンペストにおいて女としての真鶴(寧温)を語るときの用いられる舞台で、
首里城に続く、重要なスポットになっております。

はぁ~、テンペストの恋事情も切なすぎて泣けてきますよ

叙情あふれる三重城の舞台ですが…

現在はこんな姿になってしまいました。

大型リゾートホテルの裏、
三重城の入り口でアンテナ?のような鉄塔の工事をしておりました。

↑のような叙情あふれる環境は悲しいかな、
難しい状況になってしまいました。

ちなみに、当時の三重城はどのような姿だったかというと、

こうです。

葛飾北斎の描いた「琉球八景」です。

海につきだした琉球王国の重要な拝所。

今ではすっかり埋め立てられてしまって
当時を偲ぶ姿はほぼ残っていません。

 

ちなみに、三重城、初めて行きましたー(笑)

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