うなぎの与三郎商店

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今そこにいるAI〜国会における首相答弁の先進性について

2016-12-08 23:00:00 | 随想 社会・文化私論
【今そこにいるAI〜国会における首相答弁の先進性について】

《人工知能(AI)が国会答弁の下書きをする実験への「疑問」》

1.
 人工知能(AI)が国会答弁の下書きをする実験が行われるという。

AIが国会答弁下書き 経産省が実証実験
 経済産業省は人工知能(AI)に国会答弁を下書きさせる実証実験を始めた。AIに過去5年分の国会の議事録を全て読み込ませたうえで、与えられた質問に対し、過去の答弁内容を踏まえて回答できるかを検証する。行政分野でもAIの活用をめざす。公務員の長時間労働の要因になっている答弁対応の負担を減らし「働き方改革」につなげるねらいもある。〔以下略〕〔注1〕


 ゲリざる(本名)が首相を名乗り、想定の限界を超えた稚拙で舌足らずなフィリバスターを繰り返す現状を考慮すると、有意義な実験であると考える。

2.
 AIについては、以前読んだ本の中に核心を突くと思われる説明があった。

 要するに、こういうことです——現代AIのベースとなる「機械学習」とは、たとえば「言葉を聞き分ける」「写真を見分ける」といった人間の知能を、コンピュータが得意とする大規模な数値計算へと巧妙にすり替える手段である。あるいは、いかにも人間の知能らしきものを、統計・確率的な数値計算によって擬似的に表現したものに過ぎない——このように言うことができると思います。〔注2〕


 先だって「東大ロボくん」実験を終了させた研究者も同じようなことを言っている——

 AIは教育現場を変えるのか。東京大学合格をめざしたAI「東ロボくん」プロジェクトでリーダーを務めた国立情報学研究所の新井紀子教授は14日の記者会見で「AIの可能性や限界が分かった」と語った。AIの弱点を「物事の背景や文脈などの意味がまるでわかっていない」と指摘。だからこそ「意味を理解しなくてもできてしまう仕事は遠からずAIに奪われる可能性がある」とも語った。〔注3〕

 東ロボくんに限らず、どのAIも、基本的に言葉のパターンを見て、統計的に妥当そうな答えを返しているにすぎません。言葉の意味を理解しているわけではないのです。〔中略〕AIは統計的に正しそうな解答案を示すにすぎません。それと現実を突き合わせながら推論し、ハッと気づく。そんなふうにAIをサポート役として使いこなせれば、素晴らしい成果があがります。そのために、人間はリアルな実体験を積み、深く推論できる力を伸ばすことが重要だと思います。〔注4〕


3.
 「物事の背景や文脈などの意味がまるでわかっていない」とは衝撃的である。首相のゲリざる(本名)が「意味を理解しなくてもできてしまう」国会答弁を続けている。新井が指摘するように、もしゲリざる(本名)がまっとうな人間ならば「リアルな実体験を積み、深く推論できる力を伸ばす」のが本道だろう。

 残念ながら、積んで伸ばすどころか、AIと同じ思考回路を極限までダウンサイジングさせている。往年の名作「早くチチュモンチロ」「そんなこと、どうでもいいじゃんがじゃんが」〔注5〕はその代表例である。

 その延長上に、恐らく史上最低・最悪と記録されるに違いない7日の「党首討論」、特に共産党の志位和夫(仮名)に対する、何を言っているのか本気でわからない答弁〔注6〕がある。こんなことなら家庭教師をつけて毎日ドリル学習している自民党総裁・安部普三(あぶ・ふぞう)(仮名)の方がましである。彼が首相だったらと残念でならない。少なくともサルより三歩マシだろう。

5.
 ただ、見方によってはAIが国会答弁の下書きをするどころか、既に実際の答弁を行っていると言えるのではないか。ゲリざる(本名)=スーパー劣化型AI。実験を始める、始めないどころの話ではない。質の問題はさておき、ここ数年来の国会における首相答弁はAIだった。その意味で日本の国会及び現首相には先進性がある。

4.
 AIのことを考えていたら思い出した一節——

 統合失調症者の中には、表面的には非常に友好的でありながら、いつもわれわれの心の中で撥ね返されるものがあって、われわれとの内的な一致を妨げる障壁のようなものがきまって体験されるような人がいて、この「疏通性の欠如」が、ときには直観的な診断を確実なものにするほど明白である場合があるのだ、とビンスヴァンガーは言います。〔注7〕

 私は自閉症とかアスペルガー症候群とか、そういった発達障害は、根本の所で統合失調症と根を等しくしていると考えています。症状や発現形態はもちろん違っていますけれども、「自己」というものが生物学的な「個体」にとどまっていて、個人的・人格的・人称的な意味での自己つまりPersonになりきっていないという点が、その根本の所で共通しているからです。〔注8〕


5.
 AIの限界として指摘されているのは、このような「疎通性の欠如」ではないのか。そんなAIが教室及び教育の主導権を握り、「人間の講師は声かけ専念」〔注9〕などといった実践が理想像として脳天気に語られる。AIの語り部の多くは、教育の未来図を描く資格に著しく欠けるのではないか。甚大な疑問である。

 引用の繰り返しになるが、「人間はリアルな実体験を積み、深く推論できる力を伸ばすことが重要だ」(新井)。この言葉を正確な意味で理解し、実践できる人が教師になり、また学校管理や教育行政を執り行うべきであって、それは並一通りの「養成」「研究と修養」「研修」では済まない。

 経費、特に教員数と人件費の削減を目玉としてAIを導入する意図が見え隠れする中で、教職のマニュアル労働化が着々と進行している〔注10〕。AIを導入すればするほど付随する問題が膨らみ、教職の専門性が低下する一方、多忙化はいっそう進行するとしか言いようがない。


1.日本経済新聞電子版2016-12-05 12:28。
2.小林雅一『AIの衝撃』講談社(講談社現代新書)、2015年、78頁。「ああ、あれね~AIの衝撃を解毒する」2016-04-30参照。
3.「AI先生、教室へ 理解度解析し出題 人間の講師は声かけ専念」朝日新聞デジタル2016-11-17 05:00(朝刊)。
4.「(耕論)AIと生きる 新井紀子さん、栄藤稔さん、新保史生さん」より新井紀子へのインタビュー。朝日新聞デジタル2016-11-09 05:00(朝刊)。
5.「遺言を……」2015-05-28及び「ちょ~、マジ。ぶっちゃけ、じゃんがじゃんがじゃん」2015-08-22
6.「共産党の志位委員長が南スーダンの国連平和維持活動(PKO)での『駆けつけ警護』について質問した時も同じだった。南スーダンでは政府軍による国連への攻撃が続発している。そんななかで自衛隊が『駆けつけ警護』を行えば、政府軍に武器を使用し、憲法が禁止した海外での武力行使になる危険性がある——。そう問う志位氏に対し、首相は『南スーダンは誕生したばかりの最も若い国』などとなかなか本題に入らなかった」——「(社説)党首討論 安倍さん、あんまりだ」朝日新聞2016-12-08朝刊(12版オピニオン)。衆議院インターネット中継のライブラリ「国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)」2016-12-07の志位和夫(日本共産党)に具体的なやりとり
7.木村敏『臨床哲学講義』創元社、2012年、47頁。「Person――疏通性の欠如〔修正版〕」2014-06-06で取り上げた。
8.同前、59頁。
9.注3の記事参照。
10.「教職のゆくえ」2015-12-08参照。

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