A Queen of the Night

VIXX(主に90line)の腐小説置き場です。

嘘つきな唇(2)

2017-10-21 00:05:24 | 嘘つきな唇
たった一つの嘘から始まった関係。真実から目を背けたのは、君の優しさに甘えていたかったから…。


『嘘つきな唇(2)』


それぞれがストレッチをしている練習室の中で、一人壁際に座り携帯を弄る。送られてきたメールを確認したレオは文章を読み終えると深い溜め息をついた。相手は奇しくも『恋人』になってしまったエンからだ。

『収録が長引いているから今日は練習出来ないかも』

『わかった』とだけ返事を打ち込み送信する。すぐに返ってきた『皆によろしくね』の文字に続いた赤いハートマーク。ただの記号の筈なのに込められた意味を深読みせずにはいられない。

以前は殆どメールのやり取りなんてしなかった。一緒に暮らしているのだから話があればその場でしていたし、必要があれば事務的な文面で終わっていたのに、今では何かある度(特に何もなくても)こうやって日に何度も他愛ない内容のメールがくる。若干、ウザいと思える程に。それでも突き放せないのは、やはり嘘をついている…という良心の呵責が重くのし掛かってしまうからだろう。

あのエイプリルフールの夜から2週間。レオは結局、本当の事を伝えられないままズルズルと毎日を過ごしていた。

好きだと言った割にはエンの態度はいつも通りで、もしかして『好き』の意味を取り違えているのは自分なのか?なんて思う。何か(簡単に言ってしまえば所謂セクシャルな行為)を求められる事もない。しかし、時折感じる自分に向けられた直向きな視線。静かに自分の心の中に染み込むように伝わってくる甘酸っぱいエンの感情。

何時も、こんな風に見つめていたのか?
俺が気付かなかっただけで、ずっと…

嫌悪感はなかった。嫌われるよりは好かれる方が誰だって嬉しいものだ。それが例え長年の友人で、同性だとしても。

ただ、不思議だった。恋い焦がれる相手が何故自分なのか…と。さして優しくした覚えはないし、弟達を可愛がるように触れ合ってきたわけじゃないのに。

「テグニヒョン、いつまで『恋人ごっこ』するつもりなんですか?」

いつの間にか目の前に立っていたサンヒョクをレオは驚愕の表情で見上げた。どうして知っているんだ?と目で問うと、隣に並んだホンビンが然もありなんという顔で小首を傾げる。

「ベランダの隣は誰の部屋だと思ってるんです?」

「あ…」

「窓開けてたらヒソヒソ声でも聞こえますよ」

ベランダのすぐ横はホンビンの部屋だ。こっそりと何処かから監視はされてるだろうなと思ってはいたが、内容まで聞かれていたとは。無言で睨むレオに対し、ホンビンは「怒らないでよ」と笑窪が浮かんだ頬を緩める。

「まさか、こんな展開になるとは僕達だって予想外なんですから」

「俺だって予想外だ…」

ハギョナが俺を好きだったなんて…

ずっと知らずにいたエンの恋心。罰ゲームなんて下手な挑発に乗らなければ、こんなに悩む事だってなかった。

「早く言っちゃえば良かったのに。『嘘なんだ』って」

な?と同意を求めたホンビンにサンヒョクは頷いた。

「そうですよ。ぐずぐずしてるから余計言い出し難くなるんです」

「………」

レオだって幾度も試みたのだ。頭の中で反芻した言葉。だが、口を開こうとした瞬間、嬉しそうに微笑むから…どうしても真実を飲み込むしかなくて。

「そのうち言う…」

ぶっきらぼうに呟くレオに、「そのうち…っていつだよ」とマンネラインは呆れ顔で目配せするのだった。

*****

「お?」

「お!」

宿舎前のエレベーターが降りてくるのを待っていた練習組は、後から追い付いた収録組のケンとラビに軽く手を振った。開いた扉にぞろぞろと乗り込む。広くもないエレベーター内。180㎝オーバーの成人男性が5人も乗れば窮屈極まりない。

くあ…と、あくびを溢したケンにつられ、隣にいたレオも大きく口を開ける。時刻はもうすぐ明日を迎えるから、眠いのは当然だ。何気無く「ハギョナはもう帰ってきているのかな?」とぼんやり思っていると、以心伝心なのかケンが「あれ?エニョンは?」と思い出したように聞く。

「収録が押してるから練習出来ないってメールきた」

「え?そうなんですか?僕、てっきり練習に合流してると思ってた」

「は?」

「いや、だって今朝、ラジオの前撮り一本だけだって聞いてたから…」

一本なら打ち合わせ時間を考慮したとしても半日仕事ではない。メールがきたのは夕方。いつも遅くまで練習するのが日課だから、間に合わない…なんて事は有り得ない気がする。

「急な仕事でも入ったんですかね?」

「…さぁ?」

そうこうしている内に部屋のある階でエレベーターが止まった。弟達が降りていく後ろ姿を視界に捉えながらレオもそれに続く。

ピピッと無機質な電子音で微かに開いたドアノブに手を掛けたラビは「あれ?」と首を傾げた。玄関から覗く室内は真っ暗だ。

「エニョン?寝てるのかな?」

先頭をきって靴を脱いたラビがリビングの扉を開ける。脱ぎっぱなしで転がっていたラビの靴を綺麗に並べているホンビンを横目で見ていたレオは「キャー!」という叫び声に勢いよく顔を上げた。普段の野太さから想像も出来ない可愛らしい悲鳴。一体何が起こったのかと室内に駆け込んだレオの瞳に映ったのは、暗闇の中…リビングのソファーにポツンと座るエンの姿だった。

「ハギョナ?」

呼び掛けても反応はない。視線の先には付けっぱなしのテレビが、母国語とは違う音声を流している。いつだったか韓国でもヒットした恋愛物の洋画。壁際にあった蛍光灯のスイッチを入れ「ハギョナ」と再び名前を呼ぶ。ゆっくりと振り向いたエンの真っ赤に充血した瞳と濡れた頬にレオは息を飲んだ。

「ど…うした?」

「………」

「ハギョナ?」

「これヤバイよ…感動する…」

緊迫した空気に包まれていた室内が一瞬にして脱力感に見舞われた。驚き過ぎたのか(元々ビビりな傾向にはあるが)半ベソ状態のラビがケンの身体に抱き付いたまま「脅かすなんて酷いですよっ」とタレ目の瞳を更に下げエンを詰る。

「え?脅かしてないけど?」

「真っ暗な中でテレビだけ付いてたら、そりゃビックリしますよ!」

「映画館だって真っ暗の中で観るだろ?」

「そうですけど~…」

人騒がせだなぁ、と文句を言いながら自室へと向かっていく弟達。レオだけが何故かエンの言い分にしっくりこなかった。

本人はどう思っているか知らないが自分の見てきた限りでは、エンは物事を客観的に捉えている節がある。感情の赴くままに行動しているようで、その反面至ってどこか冷静だ。勿論、念願かなって1位を獲得した時など感極まって泣く事はあったが、今まで『映画を観て涙する』なんて果たしてあっただろうか。

「珍しいな」

敢えて「何かあった?」とは聞かなかった。そう言ったところで、もし悩みがあったとしてもエンは決して口を割らないと分かっていたからだ。

「うん?」

「映画…観て泣くなんて」

「そりゃ、俺だって感動したら涙もでるよ」

人間だもん、とエンは苦笑いしながら手のひらで涙の跡を拭う。

「何時に帰ってきたの?」

「さっきだよ。収録が押してるってメールしたでしょ?」

「ああ…」

気のせい…なのか?

これ以上探っても無駄だと自分を納得させレオはキッチンに向かった。珈琲を淹れる為に食器棚からカップを取りコンロの上にあった小さな鍋でお湯を沸かす。ふと、テーブルに置かれていた箱が目に入った。見慣れたロゴはエンの好きな揚げたてチキンが有名な店のもので『またか』と内心呆れる。

「買ってきたの?」

「うん、帰り掛けに食べたくなっちゃって。皆で食べようと思ったけど、もうこんな時間だから明日の朝御飯だね」

「朝からチキンはつらい」

「そんなこと言って、自分が一番食べるくせに」

まぁね。否定はしないよ。

ブクブクと沸騰したお湯を確認し、コンロの火を止めた瞬間、レオの背中に温もりが触れた。後ろから抱き付く、というよりは遠慮がちに掴んだシャツの裾。

あまりにも細かなその仕草にレオの口許が緩んだ。『困ったな』と思うどころか、寧ろ『もっとちゃんとくっついてもいいのに…』とさえ感じる。

「テグナ…」

「どうした?」

自分でも驚く程の甘い声色。微かな動揺を隠し「ハギョナ?」と名前を呼ぶ自分の声に、まるで本当の恋人同士のようだ、と錯覚してしまう。

「テグナ…ありがとう」

「なに?急に」

「言っておきたくて…」

するりと、解かれた腕と離れた温もりにレオは振り返った。一歩分の距離の間で向き合ったエンの表情は笑顔だったが、悲しそうにも見えて…ざわざわと心が落ち着かなくなる。

「ハギョナ…何か、あったのか?」

遠回しに聞いても駄目なら、ストレートに聞くしかない。だがエンはレオの予想通り「何も…」と首を横に振っただけだった。

「ハギョナ…」

「もう、寝るね。明日も早いから。お休みテグナ」

「うん…お休み…」

パタン、と閉まったリビングの扉を無言で見つめる。もう少し食い下がってエンの悩みを聞いてあげた方が良かったのかもしれない。慰め上手なラビやケンなら、きっと違う結果になっただろうが、口下手な自分には無理な話だ。

力不足に溜め息をついたレオは、カップに一回分のインスタントの粉を入れ、幾分冷めてしまったお湯を注いだ。立ち上る香ばしい匂いを鼻で吸い込み、そっとカップの縁に口を付ける。

「腹減った」

夕食は済んでいたが目の前にあれば食べたくなるのが人間の心理だ。一個だけ…と箱に手を伸ばしたレオは、ピクリと眉を動かす。帰り掛けに買ってきた筈のチキンは『揚げたて』とは程遠く思えるくらいに冷たかった。



To be continued
ジャンル:
小説
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