予感が確信に変わっていく。
パンチがヒットするたびに場内が沸きかえる。
「行けるぞ」
どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。
7月18日、内藤大助が、WBC世界フライ級王座に挑んだ。
王者は17度の防衛記録を更新中のポンサクレック・ウォンジョンカムだ。
難攻不落のチャンピオンに内藤は、過去2度挑戦している。
敵地タイに乗り込んだ初戦は、日本選手の世界戦最短記録となる
34秒で屈辱のKO負けを喫した。
日本の恥とまで言われた。
2度目対戦では、7回負傷判定で完敗した。
やはりポンサクレックの壁は厚かった。
それでも、内藤は諦めなかった。いや諦めきれなかった。
3度目の舞台が用意された。
チャレンジャーは、ゴングと同時に振り回した。
自身が一番得意としている右を大きな弧を描いて
チャンピオンの頬をめがけて打ち抜く。
おもしろいようにヒットする右のパンチに後楽園ホールは、
割れんばかりの歓声に包まれる。
もしかしたら……。
そんな予感が漂い始めた序盤戦だった。
妙な胸騒ぎを試合前に感じていた。
それは、レフリーがコールされたとき、
そのアメリカ人は、リング中央で丁寧に四方に向ってお辞儀をしたのだ。
普通、そのようなことはしない。
アジア人同士の世界戦だったためだろうか?
礼儀の意味を込めてしたのだろうか?
だが、その仕草は非常に日本的なものを感じさせた。
これは、もしかしたら、もしかするかもしれない、と予感させる光景だった。
8ラウンドの終了のゴングの後、
場内にその回までのポイント集計を発表する採点が読み上げられた。
内藤優勢がふたり、もうひとりは、ドローだった。
このまま行けば……。
が、しかし、ここからタイの英雄の反撃が始まる。
9ラウンドの開始とともに猛然とパンチを繰り出してきたのだ。
左右のパンチを浴び続ける内藤に場内は悲鳴に包まれる。
棒立ちのチャレンジャーは、苦しまぎれのパンチを出すことしかできない。
チャンピオンは、がむしゃらにパンチを出し続ける。
いつしかサウスポーの構えから、右構えに変化していた。
いや変えたのではない。
本能のままに闘っているだけなのだ。
余裕の笑みを浮かべていた王者の姿は、そこには、もうなかった。
だが、内藤も踏ん張る。
怒涛の9ラウンドの終了を告げるゴングが鳴った。
残り3ラウンドの勝負となった。
判定勝ちを狙う王者は、的確にパンチを集めるものと思われた。
しかし、11ラウンド、逆に内藤の強烈な右のトルネードフックを浴び、
ポンサクレックが、一瞬グラリとする。
行ける、行ける。
最終ラウンドが始まった。
内藤コールがこだまするなか、両者は最後の力を振り絞り、パンチを交錯させる。
まさに死闘と呼ぶに相応しい試合だった。
王者も挑戦者も関係ない。
ふたりの男だけの殴り合いがリングで展開された。
36分間の闘いに終止符を打つ、ゴングが鳴った。
勝敗は判定に委ねられることになった。
リングアナウンサーが、3-0と採点を読み上げた後、
「WBC世界フライ級 新チャンピオン……」とコールした。
内藤大助の夢が叶った。
世界チャンピオンになるという夢を掴んだのだ。
もうひとつの夢も手に入れた。
あの男との対戦を手に入れた瞬間でもあった。
パンチがヒットするたびに場内が沸きかえる。
「行けるぞ」
どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。
7月18日、内藤大助が、WBC世界フライ級王座に挑んだ。
王者は17度の防衛記録を更新中のポンサクレック・ウォンジョンカムだ。
難攻不落のチャンピオンに内藤は、過去2度挑戦している。
敵地タイに乗り込んだ初戦は、日本選手の世界戦最短記録となる
34秒で屈辱のKO負けを喫した。
日本の恥とまで言われた。
2度目対戦では、7回負傷判定で完敗した。
やはりポンサクレックの壁は厚かった。
それでも、内藤は諦めなかった。いや諦めきれなかった。
3度目の舞台が用意された。
チャレンジャーは、ゴングと同時に振り回した。
自身が一番得意としている右を大きな弧を描いて
チャンピオンの頬をめがけて打ち抜く。
おもしろいようにヒットする右のパンチに後楽園ホールは、
割れんばかりの歓声に包まれる。
もしかしたら……。
そんな予感が漂い始めた序盤戦だった。
妙な胸騒ぎを試合前に感じていた。
それは、レフリーがコールされたとき、
そのアメリカ人は、リング中央で丁寧に四方に向ってお辞儀をしたのだ。
普通、そのようなことはしない。
アジア人同士の世界戦だったためだろうか?
礼儀の意味を込めてしたのだろうか?
だが、その仕草は非常に日本的なものを感じさせた。
これは、もしかしたら、もしかするかもしれない、と予感させる光景だった。
8ラウンドの終了のゴングの後、
場内にその回までのポイント集計を発表する採点が読み上げられた。
内藤優勢がふたり、もうひとりは、ドローだった。
このまま行けば……。
が、しかし、ここからタイの英雄の反撃が始まる。
9ラウンドの開始とともに猛然とパンチを繰り出してきたのだ。
左右のパンチを浴び続ける内藤に場内は悲鳴に包まれる。
棒立ちのチャレンジャーは、苦しまぎれのパンチを出すことしかできない。
チャンピオンは、がむしゃらにパンチを出し続ける。
いつしかサウスポーの構えから、右構えに変化していた。
いや変えたのではない。
本能のままに闘っているだけなのだ。
余裕の笑みを浮かべていた王者の姿は、そこには、もうなかった。
だが、内藤も踏ん張る。
怒涛の9ラウンドの終了を告げるゴングが鳴った。
残り3ラウンドの勝負となった。
判定勝ちを狙う王者は、的確にパンチを集めるものと思われた。
しかし、11ラウンド、逆に内藤の強烈な右のトルネードフックを浴び、
ポンサクレックが、一瞬グラリとする。
行ける、行ける。
最終ラウンドが始まった。
内藤コールがこだまするなか、両者は最後の力を振り絞り、パンチを交錯させる。
まさに死闘と呼ぶに相応しい試合だった。
王者も挑戦者も関係ない。
ふたりの男だけの殴り合いがリングで展開された。
36分間の闘いに終止符を打つ、ゴングが鳴った。
勝敗は判定に委ねられることになった。
リングアナウンサーが、3-0と採点を読み上げた後、
「WBC世界フライ級 新チャンピオン……」とコールした。
内藤大助の夢が叶った。
世界チャンピオンになるという夢を掴んだのだ。
もうひとつの夢も手に入れた。
あの男との対戦を手に入れた瞬間でもあった。