White and Black Wing

『ツバサ』の吸血鬼双子と猫LOVE
最近はマイペースに更新中

サルベージ その2

2017年03月09日 | SS
Web拍手に置いていた御礼ssです
『ツバサ』の吸血鬼双子の話

神威ちゃん1人称
世界は『東京』
捏造設定あり

それでも良いよと言って下さる方は
スクロールしてお読みください







「地下に行く」

誰にともなくそう言って、いつものように階段を降りていく。
地下には巨大な水槽がある。
水に何の異常も無いことを確かめてから端に腰掛けた。
この世界に来てから一日の大半をここで過ごしている。
自分の半身が水中の力に引き寄せられて眠っているのだ。
いつ目を覚ましても大丈夫なように側にいたい。
この世界の住民は見知らぬ者に対して酷く攻撃的なのだ。
目覚めた昴流を攻撃されたくない。

どのくらい時間が経ったのだろうか。
自然に溜息が出た。
今日も目覚めないのだろうか。
もう一度、溜息をついて呟く。

「昴流。早く目覚めてくれ」

昴流が引き寄せられた水中の繭。
あれから何度も潜って切り裂こうとしたのに出来なかった。
昴流は包まれる直前、待っていて。と言っていたけれど、いつまで待てばいいんだろう。
このまま目覚めない。なんて事にでもなったら……。
不安だ。
優しく触れてくる手がないだけで、こんなにも不安になる。
いつだって昴流が側にいてくれたのだ。
あの日だってそうだった。
俺は昴流さえ側にいてくれたら他に何もいらない。


あの日からずっと2人で生きてきた。
何があっても離れないと誓い合った。
大切な俺の片割れと――。



『約束』



何かが頬に触れる感覚で目を覚ました。
起き上がると、近くを白い蝶々が飛んでいるのが目に入る。
周りを見渡してみると自分と眠ってる昴流以外は
風に揺れる花と、その蜜を吸いにきた蝶々しかいなかった。

「とうさん? かあさん?」

問いかけは風に溶けていくばかりで返事はない。
もう一度両親を呼びながらも答える声はないと確信があった。
俺たちは捨てられたのだ双子であるが故に――。


吸血鬼の間では双子は歓迎されない。
完全な魂が二分される=吸血鬼としての力が不十分
だと考えられているからだ。

普通は直ぐに殺されるか捨てられる。
けれど俺たちは妹が生まれるまで手元に置かれて育てられた。
両親にとって初めての子供だったからだ。
妹が生まれたのは俺たちが5歳の時だった。

「これで我が一族も安泰じゃの」
「今度の子は双子じゃなくて安心しましたよ」
「あの双子は殺すのか、それとも捨てるのか決めてるんじゃろうな」
「捨てようかと」
「おぉ。捨てるなら早いほうが良いぞ、情が移るからな」
「そうですね」

生まれたお祝いで祖父さんと祖母さんが来た夜、偶然聞いてしまった会話。
ドアに隔てられていたから言葉だけしか分からない。
だけど俺たちを捨てる相談をしている事は明白だった。
怖くて背筋が寒くなり、足も震え出した。
自分の血を分けた子供を捨てる相談をしているとは思えないほど
大人の声色は普通の話題と同じだったからだ。
怖さから逃れるように走って部屋に戻りベッドに潜り込むと昴流を抱きしめた。

「ん……かむい?」

昴流の声と共に背中から肩に両腕が廻された。
どうやら気持ちよく寝ていた昴流を起こしてしまったようだ。
謝らないといけないと思っているのに何もいえず、抱きしめる腕に力を込める。
しばらくの間そうしていると、頭を撫でられる感覚がした。
頭を撫でる昴流の手つきはとても優しくて怖い気持ちが溶けていく。

「かむい……なにかあった?」

心配そうな響きの昴流の声に首を振る。
昴流に今聞いた事を話す気にはとてもなれなかった。
抱きしめていた腕を解いて横に寝転がる。
すると、昴流は肘を着き少し身体を起こすと俺を覗き込んだ。
綺麗な緑色の瞳が心配そうに揺れる。

「だいじょうぶ。こわいゆめをみただけだ」

心配を掛けたくなくて、とっさに出た言葉。
そうだ、怖い夢を見たのだ。
たまに見る怖い夢と一緒だ。
自分にそう言い聞かせる。
昴流は何も言わずに俺の手を取り、そっと握った。

「ありがとう」

そう言いながら握り返すと、昴流はホッとした表情になり横になる。
お互いに、おやすみ。と言葉を交わし眠りについた。


そして――今日、家から遠く離れた湖に遊びに来た。
ここに来ると聞かされた時、捨てられるのだろうと覚悟した。
普通だったな。
父さんも母さんも俺と昴流が遊び疲れて眠るまで普段と変わらなかった。
眠っている隙に、置き去りにするような素振りなんてなかった。

これからの事、昴流と一緒に考えなきゃ。
昴流の名前を呼びながら身体をゆすって起こす。
小さく声を立て目覚めた昴流は
俺の名を呟いて微笑むと起き上がり、周りを見渡し聞いてきた。

「とうさまと、かあさまは?」
「すばる、おちついてきいてくれ。おれたち、すてられたんだ」
「すてられた?」

そう言って悲しそうに目を伏せる昴流をそっと抱きしめて頷いた。
あの日聞いた父さんと祖父さんの会話を伝える。
昴流は俺が話すのを黙って聞いた後、よかった。と、呟いた。
良かった?
思っても見なかった言葉に驚いて、抱きしめた腕を解いて昴流を見る。
このとき俺は多分、怪訝な顔をしていたんだと思う。
そんな俺に昴流は柔らかく微笑んで口を開いた。

「かむいといっしょで、よかった」

嬉しい言葉に口元が緩んだ。
本当に昴流と一緒で良かったと思う。
頷いて、そうだよな。と返した。
一緒に立ち上がり手を繋いで歩き出す

「すばる」
「なぁに? かむい」
「おれたち、ずっといっしょだよな?」
「うん。ずっといっしょだよ」
「ぜったい、はなれないよな?」
「うん。なにがあっても、はなれない。やくそくだよ」
「あぁ。やくそくな」

歩きながら交わした約束。
この日から俺たちは2人で生きてきた。
これからも2人で生きていく。
誰にも邪魔はさせない――。

「なん…だ?」

何者かが都庁に近づいている気配で思考が停止した。
都庁に住んでいるものではない。
あの狩人でもない。
だとすると、この水場を狙ってる奴らが来たのか。
ここを占拠される訳にはいかない。

「昴流、俺ちょっと行ってくる……」

静かな水面に呟くと地上に向かって歩き始めた。

Fin


この話は小さい頃からずっと2人でいたから
神威ちゃんは昴流くんしか見えてないのかな
と思ったのがキッカケです

2人きりで生きてきたと仮定して
“双子だから捨てられた”なんて
超「ありがち」な捏造設定で書いてみました

今日はこの辺で