雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

日本のウェブに「上の人」が出てこない理由

2009年06月19日 | ウェブの雑談
少し旬を過ぎてしまった感はするが、「ウェブ進化論」の著者である梅田望夫氏が、かつてウェブに対し知的エリート層の社会的インフラとしての役割を期待していたのに、それとは程遠い日本のウェブの現状に失望したという趣旨の発言をして話題になっていたことを知った。インタビューでの発言を引用すると、

…素晴らしい能力の増幅器たるネットが、サブカルチャー領域以外ではほとんど使わない、“上の人”が隠れて表に出てこない、という日本の現実に対して残念だという思いはあります。そういうところは英語圏との違いがものすごく大きく、僕の目にはそこがクローズアップされて見えてしまうんです・・・

コテコテ「下の人」に違いない筆者ごときが、「上の人」について論じるのは些か恐縮だが、「上の人」が出てこない理由について、筆者は思うところがある。筆者は以前、このブログで、成功体験には二種類あるということを書いた。繰り返しになるが、

第一のグループの成功のためには、既存の権威・価値に如何に上手く乗っかるか、が重要である。具体例を挙げると以下のようなものがこれに当たる。

・名門進学校、有名大学の入学試験に合格する
・司法試験、公認会計士試験といった超難関の資格試験に合格する
・官庁や大手有名企業に就職する、また、その組織の中で重要ポストに配属される
・甲子園、オリンピックなど、歴史ある競技会に出場、好成績を収める
・権威ある学術賞、芸術賞、文学賞、功労賞などを受賞する

日本の「上の人」は、例外がないと言い切っていいぐらい、悉くこの第一のグループに属する。これに対し、第二のグループは、自分自身が新たな権威、価値の創設者にならなくてはならないタイプの成功である。具体例は次のような感じである。

・起業して新たなビジネスを立ち上げ、株式上場を果たす
・株のデイトレードで巨額の儲けを出す
・マンガ、音楽、ゲームなどのサブカルチャーでヒット作を生み出す
・海外で武者修行し、超一流の料理人(または芸術家)になり、店(個展)を開く

問題は、第一のグループの成功体験者と、第二のグループの成功体験者が、日本では絶望的なぐらい断絶しきっていることである。日本では、優秀とされる人は迷わず第一のグループを目指し、毎日せっせと努力している。反面、第二のグループは本流と見なされないようなところがある。それだけではなく、「単に運が良かっただけ」だとか、「いつまでも続くはずがない」とか、第一グループの方面から散々な言われようだったりする(そういえば、かつて「デイトレーダーはバカだ」と断じた大物官僚がいた)。既存の価値観を至上のものとする権威主義者は、新たな価値観が生まれるのを忌み嫌うのである。また、第二のグループの面々も、日本国内における権力・名声・資本の大半を牛耳っている第一のグループに対し表立って挑戦することは得策でないので、どちらかというと自身の成功に対し控えめな態度であったりする(ライブドアの一件は、そのような教訓を益々強いものにしたと言える)。

他方で、欧米(梅田望夫氏がいう「英語圏」)では、双方のタイプの成功者が、互いに反目しあうことはまずあり得ないと思う。極端な話、巨額の賞金の宝くじに当たっただけの人に対しても、その幸運が素直に祝福される。

この、異なるタイプの成功者層の断絶ゆえ、日本では、ウェブが第二のグループの成功を目指す人々の挑戦の場(社会的インフラ)として専ら確立していく一方、梅田氏が言う「上の人」である第一のグループの人たちを(ウェブから)遠ざけることとなったのではないか、というのが、「下の人」代表(?)である筆者の見立てである。

参加者の誰もが情報を発信・アクセスできるという特性故に、既存の権威や価値観を重んじる方面からは敬遠されるのが、日本のウェブの宿命だったと言えよう(情報の発信・アクセスを限られた人々の特権にすることにより、これまでの価値体系が守られてきたのだから、当然と言えば当然だ)。

こう考えてみると、「上の人」が出てこないのは、「上の人」の保身に過ぎないのではないかという気もする。しかし、今や既存の価値や権威も揺らぎつつある。その証拠に、新聞や雑誌は読まれず、書籍も売れず、CMを打ってもモノは売れず、テレビ番組の視聴率は下がり続けている。新たな価値の創造というしんどい仕事に乗り出すことを避け、最早磐石でない既得権に乗って逃げ切りを狙うような態度でいると、「上の人」がいつまでも「上」にいられる保証はないと思う。

2009年6月28日追記:この記事の続編、日本の「上の人」は「海外」に弱いもアップされています。



最新の画像もっと見る