親子の絆を中国映画にみる
この映画、ストーリーは単純だが、伝わってくるものは濃密であり感動的だ。
中国の山岳地帯に郵便を配達する親子の物語である。父は引退しあとを継ぐ息子のはじめて配達に出る朝、三日間の行程であるが、なにかと手ほどきしたり、旅の心得を説いたりする。しかし結局は心配でもあり「次男坊」という犬とともに同行することになる。
この犬がまた親子にはさまれて存在感を示す。別に演技をしているわけではないのだが、ひょっとすると演技と見せない演技をしているのかも…。
心配げな母の顔にもほっとした安堵の笑みがうかぶ。観客も共感を覚えるシーンだ。
息子は旅の間、厳しい自然に遭遇したり仕事の重要性を肌で知らされたりしながらも、父の仕事に向かう姿勢に、山の人たちの父に対する尊敬の念や、親しみ愛情を知るのだ。
小さいときから、仕事で不在勝ちの父になじめなかった息子は、その旅で初めて父を「お父さん」と呼ぶ。ごく自然に。呼ばれた父の顔がゆるむのが感動を呼ぶ。親子の絆がむすばれた瞬間だ。あたしはそこに在りし日の日本の姿を垣間見た。失われつつある日本の家庭の姿を…。そこには家庭内暴力も家庭崩壊の憂いなど微塵もないはずだ。
三日の間に父は身をもって、郵便配達という仕事の重要性を克明に言葉すくなく、やさしい眼差しで語っているのだ。
一見の価値ある映画とみた。
もうひとつ、この映画で見逃せないのは女優陣だ。実に美しい、楚々とした風情。一昔前の日本映画にみられた女優たちと同じである
《上の写真》
いまどきのけばけばしい、これみよがしの美人とは別世界の美貌である。