フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 東日本大震災から5年が経ちました。

 この5年間のことは多くの人が多くの形で語っています。メディアでも取り上げられています。ですので、そのことは繰り返さず、私はテレビドラマ研究者として語ろうと思います。

 東日本大震災はあれほどの大災害ですから、簡単にテレビドラマに描くことはできません。震災の直後の時期にはなおさらでした。それが年月の経過とともに、少しずつ描く作品があらわれてきました。多くの人の印象にあるのは、朝ドラの『あまちゃん』(2013年、NHK)でしょうか。震災後の岩手県北三陸市(架空の市)を舞台にしたこの作品は、過去から次第に現代に戻ってくる時間経過をたどっていました。その舞台が岩手県の海外沿いであることから、登場人物たちがいずれ大震災に遭遇することは視聴者がみなわかっていて、その描き方が注目されました。
 実際の描き方はそれほど詳しいものではなく、主要な登場人物が誰も亡くならないという展開も、やや楽天的すぎると見えたかもしれません。しかし、大震災から2年の段階で、安易に描けば「不謹慎」という印象や批判を生んだかもしれません。その意味で、この時期に描けるのは、これが精一杯だったとも言えるのかもしれません。

 東日本大震災を、テレビドラマのような大衆的なメディアが描くことには、このような困難がともないます。その中で、大震災そのものはわずかに使われるだけでも、その小さな描写が重要な意味を持つ、そういうテレビドラマ作品がいくつか見られました。たとえば、坂元裕二脚本の二つの作品、『最高の離婚』(2013年)と『いつかこの恋を思い出して、きっと泣いてしまう』(2016年、現在放送中)がそうです。

 『最高の離婚』では、主要な人物4人のうちの2人、濱崎光生(瑛太)と濱崎結夏(尾野真千子)夫婦の出会いのきっかけが東日本大震災となっています。まったく性格が異なる、というよりも性格が正反対の2人が、大震災の夜に歩いて帰宅するときに偶然一緒に歩くことになり、そこでお互いに好意を持つという設定になっています。日ごろであれば性格の違いが強調されるはずの2人なのに、震災後の不安から2人の対照的な性格が、かえってお互いにとって安堵する気持ちを生み出すように描かれていました。このような感情の機微を描いているところに、坂元裕二脚本の見事さがあります。

 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』では、作品のちょうど中盤に東日本大震災が起こります。主要な人物である曽田練(高良健吾)が福島県の実家で震災に巻き込まれ、そのまま東京に戻らなくなります。それによって、練と杉原音(有村架純)ら他の人物たちとの関係が、5年間にもわたって断たれてしまうことになります。さらに練は、震災時に幼なじみの市村小夏(森川葵)に不安な思いをさせてしまったために、それを負い目に感じ、その後は小夏に償う生き方を選びます。
 『最高の離婚』と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』という、同じ脚本家によって描かれたこの二つの作品は、東日本大震災によって出会って結婚する2人と、そこから別れることになる2人を描いています。言わば震災の光と影を坂元裕二が描いていると言えるでしょう。

 このような中で、東日本大震災を真正面から描いている数少ないテレビドラマに、山田太一脚本の『時は立ちどまらない』(2014年)がありました。この作品は単発ドラマで、他の作品のような連続ドラマではありません。しかし、ストーリーの重要な部分に大震災が出てくるだけではなく、作品全体が震災とその後の人びとの関連を描いています。浜口修一(渡辺大)と西郷千明(黒木メイサ)は結婚を予定していました。しかし、海に近いところに住む浜口家の家族に大震災の被害は大きく、修一と祖母と家そのものを失います。しかし、高台に住む西郷家には被害があまりありませんでした。大切な家族と建物と家業すら失った浜口家と、被害を免れた西郷家。立場は違いますが、それぞれに苦悩を抱え、違った意味での大震災の受け止めを迫られるというのが、この作品の提示している課題です。こうした心の問題は、多くの震災報道では十分に示されてこなかったものなのではないでしょうか。
 大震災が3年が経ち、このような作品が出てきたことによって、フィクション作品でなければ描けないものがあることを示したと言えるでしょう。

 東日本大震災とフィクション世界。これは難しい課題ではありませすが、これからもその視点を心のどこかに持って、テレビドラマを見続けていきたいと思っています。



※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



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