フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 NHKのテレビドラマと言えば、「朝ドラ」(連続テレビ小説)と「大河ドラマ」がその代名詞のようにいわれますが、BS放送まで含めれば、近年は実に多くのテレビドラマ作品が放送されています。
 たとえば、現在NHKで放送中のオリジナル・テレビドラマは、衛星放送も含めればこれくらいあります。

『ひよっこ』(月曜~土曜、8時)
『おんな城主直虎』(日曜20時)
『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(金曜22時)
『みをつくし料理帖』(土曜18時05分)
『4号警備』(土曜20時15分)

『この世にたやすい仕事はない』(木曜23時、BS)
『立花登青春手控え2』(金曜20時、BS)
『PTAグランパ』(日曜22時、BS)

 海外から輸入したドラマを除いても、これだけのテレビドラマが放送されています。
 私はテレビドラマ研究者ですから、多くのテレビドラマが制作され、放送されることは喜ばしいことだと思っています。ただ、NHKは国営放送で、民放テレビ局とは違いますので、NHKには民放とは異なる役割があるということを、これまで何度も言ってきました。言い換えれば、民放と同じようなドラマであれば、何もNHKが放送する必要はないということになります。「朝ドラ」や「大河ドラマ」はもちろん民放にはない作品で、NHKらしい作品ということが言えますが、放送されている作品が、すべてがNHKならではの作品とは言えないように思います。

 今回取り上げる『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』は、実にNHKらしい作品であり、私は高く評価しています。
 というのも、この作品にはいわゆる「派手さ」がまったくありません。鎌倉で祖母に育てられた女性・鳩子(多部未華子)が高校卒業とにその祖母(倍賞美津子)とは絶縁状態になり、祖母の死をきっかけに8年ぶりに鎌倉の家に戻ります。祖母は文具店と同時に代書屋(手紙の代筆をする仕事をする人)でもありました。その祖母に厳しくしつけられ、反発して家を出た鳩子でしたが、鎌倉に戻ったことをきっかけに、その文具店と代書屋を継ぐ気持ちになる…というストーリーです。
 と書いたように、このドラマには大きな事件もなければ、ときめくような恋愛もありません。いわゆる「派手さ」のまったくないこのようなドラマは、民放で放送することはかなり難しいでしょう。だからこそ、NHKならではと言えるのです。

 この作品の主人公・鳩子は祖母の文具店と代書屋という仕事を引き継ぎます。この作品のすばらしいところは、「代書」という、多くの場合あまりよいイメージで使われない言葉を作品のメインにすえ、そこから人間のさまざまで豊かな感情の機微を描き出しているところです。
 「代書屋」ということばは、単に他人の代わりに文書を筆記するという意味で、敬意を払われない職業として呼ばれることがしばしばあります。ところが、この作品に用いられる「代書」とは、他人の依頼に応じてそれにもっともふさわしい手紙の内容を考え、その文章に適した便せん、封筒、切手、そして筆や墨の種類までていねいに選び、依頼者に心から喜んでもらう手紙を書いて、送り先に届けることです。
 人に心から喜んでもらえるような手紙を書くためには、依頼者はもちろん、依頼者が手紙を出す相手の事情や性格、そして両方の関係性までも理解している必要があります。まさに人間に対する深い理解があってはじめてこの仕事が成り立つことが、このドラマを見ているとよくわかってきます。
 このドラマは、小川糸の同名小説を映像化した作品。先に書いたように、このドラマには大きな事件もなければ、ときめくような恋愛もありませんが、それでも、人の心を深く理解することの大切さを教えてくれる作品に仕上がっています。こうした上質ながら地味な題材の作品は、民放テレビ局では放送されにくいことでしょう。だからこそ、国営放送NHKには、こうした地味でもすぐれた作品を今後も放送し続けてほしいものです。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



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