***子供部屋のうさぎ***    

幸せは、幸せだなぁって思う心の中に小さく咲く。

■鉄の匂い073■

2017年08月09日 | Weblog
そして『僕』は、すぐ転校した。
本当に、すぐ転校した。
春に転校してきたばかりなのに、1年経たない12月だった。
『僕』の転校は、終業式の日の最後に、先生の口からみんなに告げられた。
通信簿を受け取った小学生は、他人の転校などにもう興味がいかなかった。
勿論引っ越しは例によって親の都合というか我儘なのだが、級友はみな、『僕』が敗走するのだと笑った。
紛れ込んだ凶漢がクラスの和を乱そうと目論んだが、厭戦の徒に阻まれ撤退。
性善に基づき育まれた秩序が悪意ある価値観を駆逐し、首謀者を排除。
教室には平和と静寂が戻った。
敵に仕立て上げられた転校生は、お別れ会もなく連絡先の交換もなく、冬休みに突入。
同窓会にも呼ばれない。
機械的に作成させた名簿でもし呼ばれても、『僕』は勿論行かないし皆も当然来て欲しくないだろう。
いや。 欲しいとか欲しくないとか以前に、興味が無いだろう。
引っ越しが冬休み中だったのは幸いした。
誰にも惜しまれない去り際を誰かに見られるのなんて耐えられないからな。
その前に、奴らは級友ではなかった。
表記するなら級敵だ。
翌学期にはもう、みんなは『僕』を忘れてるだろう。
そしてこれまでと同じ諍いをそれなりの距離感で楽しむのだろう。
癌が完治したかの様に、『僕』は居なくなる。
そう。 『僕』は、居なくなるのだ。
存在が無になるのだ。
長い6年間の小学校生活の中で、1年にも満たない間在籍した薄い影の転校生。
主人公ではなく、途中から参加してきてすぐ殺されて忘れられるサブキャラ。
途中から混入してすぐさま排斥。
『僕』は、新天地に羽ばたいていくのではなく、安住の地をひとつ失った堕天使なのだ。
そんな『僕』を『僕』は俯瞰で観察していた。
自分を客観的に見ることでしか、今の自分の堪えがたい境遇から逃れる術が無かったからだ。
ジャンル:
小説
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