***子供部屋のうさぎ***    

幸せは、幸せだなぁって思う心の中に小さく咲く。

■鉄の匂い062■

2017年07月29日 | Weblog
耳元がざわつくので振り返ると、軒下に吊るされた魚か何かの肉に、蠅がわんわん集(たか)っていた。
悍(おぞ)ましさに後退りすると何かを踏んだ。
足元を見ると、踏まれても鳴くことさえできないくらい弱った犬が転がっていた。
人間の住む世界じゃない。
人が生きる環境じゃない。
こんな家の並びに橋元くんの家はあったんだ。
あんなに優しい橋元くんのお母さんが、こんな家の並びに住んでいるなんて。
あんなに優しい橋元くんのお母さんが、こんな家の並びにしか住めないなんて。
仕事に追われ忙しい中、時間を割いて『僕』を持て成してくれたお母さんが。
更にその気遣いを『僕』が負担に思わない様にと隠した優しいお母さんが。
胸の中で擦れあう真逆の考えが摩擦で悲鳴をあげた。
雑草を掻き分け土手に戻る。
振り返るともう家々は見えなかった。
行く宛もなくなり帰るのも難(がた)く、『僕』はいつのまにか杜松くんの家の前に立っていた。
杜松くんの家は高いコンクリートの塀に囲まれていて、インターホン以外で中の様子を窺い知ることはできなかった。
特に用もなく、だからインターホンを押せず、『僕』は家の周りを周回していた。
すると中から杜松くんのお母さんの声が聞こえてきた。
大きな声で話していたが、相手の声は聞こえないのでどうやら電話の様だった。
何処其処の店で食べた何某かがとても美味しかっただの、聞いたこともないカタカナのブランドの服が高いだけあって着心地がどうのこうの。
下らない話を嬉しそうに話していた。
下らない人間が下らない物の話を嬉々として語っていた。
家を離れてもその大きな声はしばらく聞こえてきた。
『僕』は来た道を戻り、橋元くんの家の並びのさっきの家に向かった。
並びと言っても、その間は約100メートル程あったが。
急に芽生えた殺意と破壊衝動に震える指を揉みながら。
ジャンル:
小説
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