***子供部屋のうさぎ***    

幸せは、幸せだなぁって思う心の中に小さく咲く。

■鉄の匂い037■

2017年07月06日 | Weblog
「じゃまた明日ね」
いつも明るく手を振り去っていく楠木くんが、9月の始業式が迫った8月末、手を挙げるのが精いっぱいになりやがて振り返ることもなくなった。
学校が始まるのが憂鬱なのか。
夏休みが終わるのが残念なのか。
子供はみんな夏休みが好きだ。
一ケ月以上遊び惚けたら、それまで好きだった学校も面倒になるかもしれない。
そんな風に思い、深刻な問題が存在するとは考えなかった『僕』は実に浅はかだった。
楠木くんは、すべてを『僕』に曝け出してくれたのに。
彼は『僕』のすべてを受け入れてくれたのに。
『僕』は彼の発する信号に気付いてあげられなかった。
それは始業式の朝に分かった。
学校に行くと、校門にいつもは居ない先生が立ち並び、生徒ひとりひとりに教室には行かずそのまま体育館に集まる様に促していた。
『僕』は、宮島と坂田が見つかったのだと思った。
『僕』は覚悟を決めた。
人を二人殺したのだ。
しかもその死骸を埋め、その後何事もなかった様に夏休みを謳歌してたのだ。
反省や後悔は認められない。
情状に酌量の余地はない。
この罪は重い。
この残虐な犯罪の結果は、家庭裁判所から保護処分として少年院に送致なのか。
それとも、心神喪失の烙印を捺され精神病院入院措置となるのか。
何れにしても、もう小学校には通えないだろう。
小学校に良い思い出はないし通わなくて済むならそれはそれもまた良しだが、収監されるのは恐かった。
日常生活の最後の瞬間が迫る。
しかし校門に近付いた『僕』に先生は他の生徒と同じ様に体育館へと誘った。
もしかすると。 二人は見つかったがまだその犯人は分かっていないのかもしれない。
『僕』は楠木くんを捜した。
『僕』は楠木くんの意見が聴きたかった。
『僕』は楠木くんと共に抗いたかった。
しかし楠木くんは何処にも見当たらず、楠木くんが登校しないまま、体育館の鉄の扉は閉められてしまった。
ジャンル:
小説
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