urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

法月綸太郎『誰彼』講談社文庫

2005年11月18日 | reading
ネタバレ一応注意。

「たそがれ」と読みます。十一月読書会課題本。

僕のミステリ遍歴は綾辻、島田、我孫子から法月に至るのですが、この作品を読んだのはだから中一ぐらいでしょうか。それ以来の再読です。
よくこんなん読んでたな、というのが第一印象。多分新宗教や全共闘、コミューンといった僕のツボポイントが多数あるので、幼心に琴線に触れるものがあったのでしょうね。
しかし眼目はそこではなく、三人の兄弟の現在と過去の殺人事件をめぐって、築いては崩し、崩しては築く推論の嵐。ロジックを砂上の楼閣として弄ぶ、まさに字義通りの「推理小説」です。デスノート読者よ、これこそがロジックだっ。
あとがきでデクスターを「変態パズラー作家」として紹介し、その方法論を用いたと述べていますが、まさに「変態パズラー」の名に相応しい偏執的パズラーです。ロジック路線のミステリが好きな人にはたまらないでしょう。そして俺は大好きです。真相の特権化がちょっと弱い気がするのが減点材料ですが、正直真相なんてどうでもいい(笑)。キャラクタもいいし、読んでて楽しいよ。

しかし『頼子のために』でもそうだったけど(池上冬樹は母親の親友の高校時代の思い人らしい)、法月になんとかハードボイルドを書かせようとするそっちの畑の人の解説は今読むと面白いね。彼の現在の実作は、完全に本格ド真ん中を射抜いてるからなあ。
まあ、本格を茶化したようなセリフもあってなかなか面白かったんだけど、それはハードボイルド嗜好云々より、なによりもこの作品の変態性を茶化した自意識の表れでしょう。

《「あなたはいつも、そんな方法で事件を解決しているの?」》(97p)

《「息子さんは、天才ですね」
 「ほめてもらって、恐縮だ」
 「問題は、現実の犯人が、息子さんほど頭がよくないことだと思います」》(233p)

作品の評価はBプラス。再読ながら価値に変化なし。

406185240X誰彼(たそがれ)
法月 綸太郎

講談社 1992-09
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