アメリカのダニエル.サイモンという心理学者の実験で、
1. ヘルメットをかぶった人物が女子学生に道を尋ねています。
2.その間をパネルを担いだグループが通行しようとします。
3.パネルの後ろ側を持った人物と道を尋ねていた人物がパネルの陰で入れ替わります。
4.女子学生は相手が入れ替わっていることに気がつかず答えを続けます。
これは変化盲という現象についての実験で、たまたま一人の人についてそうだったということではなく、何人もの人について実験したところ、半数近くは入れ替わりに気がつかなかったそうです。
この現象は何かに注意を向けることで、他のことには注意が向けられないため、見えているはずなのにちゃんと見ていないとということで、「不注意による盲目」などといわれています。
人間の目は視界の中のすべての部分が眼には入っても、それをすべて意識したり記憶しているわけではないようです。
このようなことから、人間の認知や意識は穴だらけだという風にいわれたりもします。
このように実験の結果を示されれば、ビックリしてまさかそんなことあるだろうかと思うか、人間の認知能力は頼りないものだななどと考えたりします。
しかしこの実験の場合もし、道を聞く人物が聞かれるほうの人物の知人であるとか、誰にでも知られているような人物だったりすればどうでしょうか。
そうした場合はほとんどの人が入れ替わりに気がつくのではないでしょうか。
ということになれば、不注意だから入れ替わりに気がつかないというよりも、道を尋ねている人物が誰であるかということに関心がないということではないでしょうか。
相手の人物に関心や関係があれば、その知識が自動的に呼び起こされているので、意識しなくても応答の仕方なども影響を受けているはずで、相手が入れ替わっても同じような応答を続けるということはありえないのです。
知らない人物に道を聞かれて答える場合に、その人物がどんな人物かということに関心が向く場合もあれば、向かない場合もあります。
関心がなければその人物に注意が向かず、記憶に残らないので入れ替わっても気がつかないということが出て来るわけで、不注意だとは必ずしもいえません。
不要なことにエネルギーを使わないと言うことで、適応的なあり方なのかもしれないのです。