考えるための道具箱

Thinking tool box

◎よき経営者の姿。

2007-02-04 02:11:52 | ◎読
いやはや。家にいるのはほんとうに何日ぶりか。と、思っていたら2月も3日になってしまっている。初詣にいったのは、つい最近のことか、それともずいぶん前のことなのか。先週末の北関東での滞在は、つい最近のことか、それともずいぶん前のことなのか。なんだか、よくわからなくなっているなあ。

そんな虚ろな毎日からの目覚めの一冊は、伊丹敬之教授の『よき経営者の姿』。一見、手ごろなビジネス成功ストーリーの集成のようにみえるが、どうしてどうして、これは、単純によき経営者のケースを紹介するだけのものではなく、彼がこれまでの学究の途上で出会ってきた多くの優秀な経営者の素地やスキルの全体像をみつめ、そのうえで、ていねいに経営者のモデル化・概念化を図った研究の書のひとつである。なによりすばらしいのは、ここで提示されているよき経営者のコンセプトがアクチュアルな行動規範として、感動的なまでに参考になることである。

例えば、最初の章で、よき経営者の「顔つき」をまとめていて(P18)、その特長として
□深い素朴さ
□柔らかい強さ
□大きな透明感
をあげている。それぞれが形容詞と名詞の組み合わせになっているのだが、それぞれがどちらかというと相容れにくい組み合わせになっている。素朴ではあるがそれは思慮浅いものではない。その強さは、決して強硬なだけものではない。そして、凛としたシャープなだけはない、何かに包まれているような透明感。伊丹は、これを「複雑な顔つき」といい、さまざまな対立軸を止揚し高度な解をめざす思考を繰り返せば、自然と滋味深い顔が生まれてくるのだろうとしている。このような顔を直截的に目指すことはできないが、「素朴に感じよ、しかし深く考えよ」「決断に強い芯をもて、しかし余地は残せ」「我欲を捨て、覚悟が明確な、しかし人を惹く安心感を纏え」と読み取ることが許されるのであれば、これは机の前にでも貼っておきたいような箴言となる。

中盤(P92)では、経営者のおこなうべき任務を「事を興す人」「事を正す人」「事を進める人」と分類し、それぞれの境界線は難しいとはしつつも、必要な資質は異なり「構想力」「切断力」「包容力」と定置しているところも納得性が高い。例として順にあげられた「松下幸之助」「中村邦夫」「奥田碩」も大きくうなずける。ビジネスの場において、いま自分がどの位置にいるのかを思えば、たとえ経営者ではなくても、必要な行動規範が明確になる。

そのほか、「育ち方」「仕事」「失敗」など、さまざまな角度からまとめられている優秀な経営者のコンセプトは(結局は結果論というところを差っ引いても)、どれも腑に落ちるものばかりなのだが、全体を通じて、内省的な思索を大きな場で深く行うこと、もっと言えば「考える、考えつくす」ことこそが、経営者としての重要な素養である、と繰り返される部分には、大きく勇気づけられる。『反戦略的ビジネスのすすめ』以来の付箋本になった。

いまではビジネス書は、ほとんど、資料としての視点でしか読めなくなってしまっているが、思えば、社会人になったばかりのころは、潤沢とはいえないまでも時間もあったので、当時の仕事にはダイレクトに関係しなくても、とりあえず読み漁ってみて、かつ何回か読み返してみて、それを仕事の技術面と精神面での礎としていくような読み方もできていたような気がする。

ドラッカーは別格として、それは、例えば、嶋口充輝教授の『現代マーケティング』や『統合マーケティング』、デヴィッド・オグルビーの『売る広告』、三枝匡の『戦略プロフェッショナル』といった本であり、もちろん、伊丹教授の場合も『経営戦略の論理』、『ゼミナール経営学入門』、『人本主義』に始まり、最近では『創造的論文の書き方』まで、テクニカルな知識武装にかんしては、ずいぶんお世話になった。信頼に足る人は、いつまでも変わらないものであることを覚えると同時に、日ごろのビジネス書の、荒れた読み方を猛省すべきだと痛感する。
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2 コメント

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ピッタリ! (kanameody)
2007-02-04 16:59:34
「柔らかい強さ」

って言葉、浦山さんにピッタリだと思いました!!
みんなの「パパ」たる所以ですね。

ちなみに、うちのパパ(本当のねw)も経営者ですが、
「社長なのに、柔らかさがあるのが良い」とは、
たまたまパパの会社の経営企画室にいた、
私の小学生同級生がいってくれた言葉。

社長という立場だからこそ、
より「柔らかさ」というのは必要とされる要素なのかも
しれませんねー。
レス、遅くすみません。 (浦山隆行)
2007-02-06 23:40:30

なかなか難しいところなんですけどね。
柔らかさ≒優しさ、ってところが。

一方的な意見を通そうとせず
止揚していく態度は、
ようは柔軟である、ということで、
それがときには優しくみえたりするわけです。

だから、ただ優しいってのはだめなんですよね。
だいたい、ホンダの創業者さんなんて
グーで部下殴ってたくらいですから。
むずかしいですね。

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