プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 米沢穂信「折れた竜骨」

2013年04月22日 | ◇読んだ本の感想。
渡し守のマードック。
蜂蜜酒(ミード)。
晩課(ヴェスパー)の鐘。
ジョン王と女帝モード。

……とくれば、あれでしょう。

まあ気づいたからエライというほどマイナー作品でもないけどね。
そもそも、あんまりあとがきを見たことある気がしない米澤穂信が
珍しくあとがきを載せていて、そこにも書いてあることだし。
だが、あれの中世イングランドの雰囲気は好きだったので、この作品は相乗効果で相当に楽しめた。





魔法世界であろうと、SFであろうと、歴史物であろうと、ルールをちゃんと決めればミステリは作れる。
その見本のような作品。
西澤保彦(「七回死んだ男」が典型)なんかがお得意なパターンですね。
米澤穂信は「インシテミル」もそんな感じだった。

かっちりルールを提示して、綿密に話を運び、ガッと虚をつく、という意味では
エラリー・クイーン傾向。今回、読者への挑戦状という言葉こそ使われてなかったけど、
まさに挑戦状という章があって、そこを読んでる時はぞくっとしたもの。
けっこう上手いと思う。ミステリとして。

いや、挑戦状の部分だけじゃなくてね。
全体的に話の積み上げ方が上手い。ここまで作ってくれると嬉しい気がする。
まあわたしは、それほど論理にはウルサイ方ではないのでハードルはだいぶ低いが。
(とはいえ、“左手の剣”からの結論は無理がありすぎ)
その代り(?)話の自然さにはかなりウルサイけど、今作はほぼ文句をつけるところはなかった。
ここまで設定を自分で作りあげる根気に拍手。

――だが残念なのは、ガッと虚をつく部分はかなり成功していると思うのに、
(わりといつもこの部分は難易度C、Dを決めてますよね。今回だって後方二回転ひねり、みたいな)
そのあとの話の収束部分が、この人はいつもいまいちな感じなんだよなあ……。
盛り上がってそそくさと終幕。しつこく書いても艶消しだと思うが、ちょっと物足りなくて残念だ。
もう少し書き込んで欲しい。




今回はキャラクターが魅力的。
いや、米澤穂信は基本的にキャラクターを意外にも魅力的に書く人だと思うけど
(本格、なおかつキャラクター、というのはなかなか難しいのではないか)
アニメ的な絵柄で浮かんで来る人物造型でした。
シリーズ物にはしにくい話だから、アニメ化は難しいと思うけど、
これを丁寧にアニメ化したらけっこう見ごたえがある作品が出来そうだなー。
見たいけど、そこまで良心的に(キャラ萌えでなく)作れる人はいるまい。
しかし「氷菓」がアニメ化されたのだから、世の中何が起こるかわからないと言えば言える。


米澤穂信で一番面白かったかな。
この作品世界でもっと読みたい気がする。
難しいかな。だが合言葉まで決めて終わるとなると、次も書くつもりでいるのか。
しかし何で「折れた竜骨」?意味がわからない。わたしが気づかないだけだろうか。



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