プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 国書刊行会「書物の王国」シリーズ

2010年07月18日 | ◇読んだ本の感想。
これを読み始めたのは、直接的には須永朝彦が編者の一人だったからだが、
その前から気にはなっていた。だってそそりませんか、タイトル。
「書物の王国」なんて。

そもそもこのシリーズは何なのかというとアンソロジー。全20巻。
巻ごとにお題がある。それにふさわしい短編をアンソロジストが集めて1冊に編む。
このそれぞれのお題もけっこうそそる。

架空の町 夢 王侯 月 植物 鉱物 人形 美少年 両性具有 同性愛 
分身 吸血鬼 芸術家 美食 奇跡 復讐 怪獣 妖怪 王朝 義経

……美少年、両性具有、同性愛が並ぶ所なんかは、いかにも須永朝彦っぽいですけどね。
鉱物っていう切り口は新しいと思った。文学の鉱物の繋がりでイメージ出来るものなんて、
わたしは宮澤賢治くらいしかない。
それに怪獣って!妖怪はわかるとして怪獣って!新しいなあ。
一際異彩を放つのが義経。そうか、義経は固有名詞を離れて普通名詞になりかけてるのか……


でも実は20巻読み終わって、面白かったかというとそうでもない。
わたしがこのシリーズに期待していたのは、面白い短編に出会って、もっとこの作家の作品を
読んでみようという気になることだったのだが、20巻読んでそう思えたのがたった一人。
アンリ・ド・レニエという人。
読んだのは11巻の「分身」に出て来た「対面」。
ヴェネツィアの話を書いている人らしいから、近いうちにもっと読んでみるつもりでいる。

あとはなー。
「妖怪」の巻に載ってた「稲生物怪録」はけっこう面白かった記憶(というより記録)がある。
「王朝」の巻は総じて面白かった。解題で断ってあるが、このテーマだと当然西洋の
王朝という切り口もあり得るわけだけれども、今回は日本のみに限定したんだってさ。
その日本のみの王朝物を読んで改めて思ったわけだが、わたしはやっぱり王朝物が好きだ。
これだけは一冊まるごと、楽しく読めた。

最後の「義経」は……テーマとして固有名詞を持ってきたことにも驚いたし、
義経自体好きなので期待していたのだが、あまり面白くなかった。
近世の二次創作が占める割合が多すぎた。歌舞伎とか浄瑠璃とか、同工異曲に思える。
それよりむしろ近年のエッセイなんかを読みたかったところだ。
大仏次郎の何かは入ってもいいところじゃないのか。
あ、それから末松謙澄の「義経再興記」、義経=ジンギスカン説を一所懸命唱えているのだが、
その強引な論理展開に辟易した。すっかり嫌いになってしまった。


20巻読み終わるまでちょうど2年かかった。
労多くして功少なしという気も多少するが、まあこういうのは、参加することに意義がある
ということで……



分身 (書物の王国)
分身 (書物の王国)
posted with amazlet at 10.07.07
泉 鏡花 国書刊行会 売り上げランキング: 229710








コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇ イタロ・カルヴィーノ「見... | トップ | ◇ 秋山瑞人「猫の地球儀 焔... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

◇読んだ本の感想。」カテゴリの最新記事