プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ トレヴェニアン「シブミ」

2017年06月18日 | ◇読んだ本の感想。
こんなタイトルで、フランスの哲学者みたいな名前だから、難解な小説なのかと思っていた。
そしたら案に相違して、早川書房出版の殺し屋小説(?)。まあだいぶ哲学的ではあるんだけど。
そして著者がアメリカ人だということにびっくり。
内容にアメリカ人をくさしているところがいっぱいあるので、少なくともヨーロッパ人が書いたものだと思っていた。
同族嫌悪ということだろうか。

主人公はロシア貴族の血を引く(他にも色々な血を引く)、幼い頃に上海に亡命してきた少年。
間もなく母が死に、その後の育ての親は日本人の軍人&日本に移住して以後は囲碁のお師匠さん。
……この辺の経緯は短いながらも興味深く書かれている。わたしは説明できないので本文を読んだ方がいい。
つまりはこの主人公:ヘルは、文化的には非常にゴッタ煮の状態で成人した人。

日本人の軍人=岸川さんはオイコラ系の人ではなく、むしろ文人タイプの冷静な人。
その人から囲碁を習い、囲碁を通じて精神性を高め、本人の生涯の到達すべき境地として“シブミ”を、
12、3歳の頃から設定する。
その後岸川さんが戦犯として虐待され裁かれ、その関係者であるヘルも拷問を受け、20歳前後を監獄に閉じ込められて過ごす。
そこですっかりぐれた(らしく)暗殺者の道へ。←という言い方は少々飛躍があるが。

しかしヘルの暗殺者としての時代は描写されない。敵対団体の方々によってほんのちょっと語られるけれども。
この敵対団体が……“母会社”というコードネームの、CIAとかアメリカ国家と微妙に利害の一致と相反がありながら
存在する、要はアメリカは石油会社によって牛耳られているという説に基づいての石油関連団体。
小説は、この団体側からと、暗殺者稼業を廃業してバスクで平和に暮らすヘルの視点からと、双方向から語られる。


全体的にはけっこう面白かったんだ。普通に読んでいる分には特に不満はない。
が、何しろフランスの哲学者という先入観がある上に、話としては母会社VS卓越した暗殺者の闘いという完全にエンタメなので、
……このギャップでなんか素直には読めなかった。
作者の経歴とか精神遍歴が気になっちゃって。

アメリカの悪口を(しかもわたしからすればわが意を得たりという皮肉な悪口を)散々書いてるけど、
アメリカから乖離した経験のある持ち主なのか?
付け焼刃ではなく囲碁に詳しいようだけど、日本に滞在経験はあるのか?
今でこそ世界のどこにいても囲碁は学べるし、ネットで対戦もできるけど、発表当時の1970年代にはどうだろう。
アメリカのコンビューター事情は日本よりかなり進んでいたとはいえ、まだMS-DOSでちょこちょこやってる頃かと。
もちろんアメリカに囲碁コミュニティがあったっておかしくないし、アナログな方式で学ぶことはいくらでも可能だろうが、
日本の精神文化も含めて、一体どこで身に着けたんだろう。

さらに、ヘルが現在住んでいるところはバスクなわけですよ。
日本。バスク。当時の世界からいったら辺境。またレアな土地柄を並べましたね。
外国を舞台とする小説はいくらでもあるが、ある程度は知らないとさすがに書けないだろうし、
この辺境を2つ並べるところが不思議。

というような、疑問点を感じながら読んでいたので、素直に楽しめたというには雑念が入った。
まあこういう疑問点を感じるというのも楽しみの一つではあるけどね。
哲学的な内容も楽しめた。淡々として、乾いた語り口が魅力。

しかし母会社サイドの話はもう少し工夫して欲しかったかな。ヘル側の内容が複雑で興味深いのに比べて、
母会社側は典型的な悪役。悪役の日常些事の描写に終始しており、しかもその悪役が魅力的じゃない。不満。
ヘル側から説明するウマイ方法がなかったもんかね、と思ってみる。
情報提供者から語られる母会社の動き、とかの方が不気味で良かったのと違うか。



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