無意識日記
宇多田光 word:i_
 



『For You』のヘッドフォンのように、Hikaruの楽曲にはたびたび具体的なアイテム名が登場する。DVDとかMP3とかHard DriveとかBlackberryとか色々あるんだけど、こればっかりは未だに『Automatic』のインパクトを超えるものはない、と思う。「昔はよかった」にいつも「んなこたぁない」と反論しがちな私がデビュー曲がピークだとあげつらう論点が出てきたぞ。珍しい。

何よりもまず電話だ。『七回目のベルで受話器を』が『な・なかいめのべ・るでじゅわ』と妙な切り方をするもんだから日本国民は皆騙されて惚れてしまった。これに関しては、次のシングル曲『Movin' on without you』の歌詞に『枕元のPHS』が出てくるのと併せ技一本という気がする。「電話のベル」という19世紀のグラハム・ベル以来の(って駄洒落じゃねぇんだから)古風な表現からの、最新の"今"を切り取ったPHS…ってそもそも20世紀の話だし今の若い子はPHSなんて触った事ないんじゃないの。ったく。まぁ、2曲跨ぐ事で(って3部作のうち2部だからね、跨いで捉えるのよ)古今東西感が出てますのよ、という事です。

でもでもでも。『Automatic』に出てきたアイテムでいちばん印象的だったのは『Computer Screen』の方じゃないでしょーか。だって『チカチカしてる文字 手をあててみると I feel so warm』ですよ。この情感ってば。

まだインターネットの普及もままならない20世紀末、まだまだコンピューターってのは「冷たい」存在で、人と人とはちゃんと会って、せめて肉声で会話を交わすべきだとかなんとかいう大人も少なくなかった中、コンピューターのスクリーンを手で触って「ほら、あったかいよ」だなんてもうちょっと近未来SF的な叙情性だったのですよ、当時は。

ここの部分の歌詞、たぶんヒカルは深く考えてない。だって、冷静に考えたら画面が熱を持ってる事と画面の向こう側(これも比喩表現ですが)の人の体温とはまるで関係がない。擬似的も擬似的、ただの勘違いですらある。しかし、ほんとにその時、「なんだ、コンピューターの画面だってあったかいじゃん」と思ったんだろうね。そしてそれをそのまま歌詞にしたんだろうね。ヒカルが感じた事をただそのまま書いたから、共感が得られた。基本中の基本ですな。

…しかし…これも今の若いファンにはしっくり来ないのかもなぁ…、まずコンピューターの画面は基本的に液晶とかなので熱をもたない。したがってI don't feel so warmである。その上、パソコンもスマートフォンもタッチスクリーンが基本になっているから「画面を触る」という行為自体が特別でも何でもない。この差はデカい。というのも、昔のブラウン管時代のコンピューター・スクリーンってのは「触ると指紋がついて汚れるから」ってんで普段触れる機会が全く無かったのよ。掃除する時は電源落としてるしね。だから、『チカチカしてる文字』に『手をあててみる』のは特異な行為だったし、だからこそ「あ、なんだ、あったかいんじゃん」という“発見”があった。発見があり得たのだ。今の子たちにはこの(人と画面との)"距離感"がわからなくなっていくかもわからない。『Automatic』の歌詞は、電話のベル以外のところでも"時代を感じさせる"、否、“何を言っているかよくわからない”と解釈されていくようになるのかもわからない
。それはそれで、まぁ面白そうだから、いっか。

いずれにせよ、今のヒカルにもまたこれくらいに、時代性を反映させた小道具を登場させた歌詞が書けるのか?という論点もまた、次の新曲や次のアルバムを評価する時に覚えておいてもいいかもわからない。多角的な聴き方をして楽しみましょうぞ。

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