一方でFirst LoveのDemo Versionは、また違った意味でデモっぽくない。まるでこちらの方が後に出来たんじゃないかと思わせる、という意味で。
First Loveのオリジナルのスタジオ・バージョンは、ピアノと弦楽器が壮大に盛り上げ、スネアも深めにエコーをかけてスケール感を大きくした「これぞザ・バラード」という雰囲気のサウンドだった。事実、この国ではまさにバラードのお手本、スタンダード中のスタンダードという風に認知されている。
しかし、このDemo Versionはもっとレイドバックしているというか、こぢんまりとしてして、どこか親しみやすく素朴なアレンジである。
これは、オリジナルにはないパーカッションの存在が大きい。レゲエ並み、とまではいかないかもしれないが、まるで南国リゾートでのんびり過ごしているような空気さえ漂ってくる。どちらかというとリラクゼーション・サウンドである。ここには、オリジナルに見られるようなスケール感は無い。
どちらかといえばこういうのは後からリミックスとしてリリースされるんじゃないか、というのがひとつの印象だ。「光」と「光(Godson Mix)」みたいに。オリジナルの力強さが力んで聞こえてくる頃に、肩の力を抜いて同じメロディーをゆる~く楽しみたい、といった動機から聴きたくなるようなな。
と、思っていたのだが、改めて聴き直してみると、こういう順序で曲が"進化"したケースが過去にあったな、と気がついた。ホイットニー・ヒューストンの"I will always love you"である。「えんだあああああいあああ~♪」っていうアレね。映画「Bodyguard」の主題歌だっけ。忘れちった。この曲のオリジナルは元々もっと素朴なフォーク・ソングで、それこそフォーク・ギター片手にまったりしながら呟くように歌う"小品"という感じだった。それを、ホイットニーの圧倒的な声量によって壮大なラブ・バラードに仕立てあげて全世界的な大ヒット曲になった。映画のサウンドトラックアルバムとしては史上屈指の売上を誇る筈である。
恐らく、そういった"化学変化"が、このFirst Loveの制作途上で起こったのだろう。或いは最初のヒカルの意図が河野さんに伝わりきっていなかったか。いずれにせよ、Another Chanceのケースとは異なり、こちらは寧ろ「よくぞこの完成版になってからリリースしてくれました」と言いたくなる。でなければ、冗談抜きで邦楽の歴史が変わっていたかもしれない。デモの時点で既にメロディーは美しいが、オリジナルにあるあの「ベッタベタな王道感」がない。ホイットニー同様、こうやってスタンダードとして愛されるには王道感は非常に意義がある。デモを聴き返すことによってスタジオバージョンの成功が確認できる、デモバージョンかくあるべしというトラックだった。ある意味、First Loveは、デモもデモとしての"王道"を歩んでいたのだといえる。歴史的価値の高い収録である。
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