無意識日記
宇多田光 word:i_
 



スタジオジブリの映画は、タイトルに「の」の字が入る事でヒットすると言われてきた。

「風の谷のナウシカ」(ジブリじゃないけど定期)
「天空の城ラピュタ」
「となりのトトロ」
「ほたるの墓」
「魔女の宅急便」
「紅の豚」
「もののけ姫」(物の怪姫)
「ハウルの動く城」
「崖の上のポニョ」

などなど。書くのが面倒なのでここらへんで切り上げるが(本題と関係ないもんでな)、まぁご覧の通り、数多くのタイトルで「の」の字が使われている。ヒットの理由かどうかは定かではないが、「の」の字を入れる事が悪いジンクスではない事くらいはわかる。

勘のいい方は私が何を言いたいかもう気づいただろう。『Fantome』の曲タイトルを列挙してみよう。

1: 道
2: 俺の彼女
3: 花束を君に
4: 二時間だけのバカンス
5: 人魚
6: ともだち
7: 真夏の通り雨
8: 荒野の狼
9: 忘却
10: 人生最高の日
11: 桜流し

「の」の字の入るタイトルを持つ曲が、

『俺の彼女』
『二時間だけのバカンス』
『真夏の通り雨』
『荒野の狼』
『人生最高の日』

と5曲もある。今までのヒカルの曲で「の」の字が用いられていたのは

『誰かの願いが叶うころ』
『日曜の朝』
『嵐の女神』
『Hymne a l'amour 〜愛のアンセム〜』

の4曲しかなかった(筈な)のでいきなり倍増した訳だ。

理由といってもこれは当たり前の事で。日本語において2つ以上の単語を組み合わせる時に最もよく使われる字が「の」であるに過ぎない。実際、他の「の」の字の入らない曲タイトルは

『道』
『花束を君に』
『人魚』
『ともだち』
『忘却』
『桜流し』

と『花束を君に』以外総て一つの単語のみで形成されたタイトルである。単原子分子みたいなものだ(ほんまかいな)。そして、『花束を君に』でみられるような「に」や「を」の字は、タイトルに使われる頻度は「の」の字に較べてずっと少ない。統計をとった訳では、ないけれど。

読者諸氏は今のうちに、「の」の字を使って2つ以上の単語で形成されたタイトルと、一つの単語だけで形成されたタイトルの、それぞれが醸すイマジネーションの違いを堪能されるのがよいと思われる。宇多田ヒカルの日本語に対する感覚が、タイトルからどれ位滲み出ているのか。想像力が制限されない今のうちに、頭と心を巡らしておこう。日本語を解するファンにしか与えられていない特権なのだから。

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10曲目は『人生最高の日』。なんというか、解釈の幅を許さないくらいに直球のタイトルだ。これでこれが息子の生まれた日でなかったらダヌパ拗ねるよねぇ。

捻りに捻ってくるとしたら誰かを喪った日か。「愛する人を得るのはいちばんよい。その人を喪うのはその次によい」と言ったのは誰だったかな、たぶん、その人の後半生を最後まで見届けられた充足感の事を指しているとは思うのだがそれだって「その次によい」まででしかなくて、最良と呼ぶには程遠い。やっぱりその解釈は捨てるべきか。

結婚とか出産以外で「人生最良の日」と呼ばれる日なんてそうそうあるのかな。目下リオデジャネイロオリンピックの開催真っ最中だが、金メダルを獲った瞬間などは、そういった呼称が相応しいように思う。派手なガッツポーズで倒れ込むよそりゃあ。

となると、『人生最高の日』は、歌詞の内容はわからないまでも、もしかすると今後、たとえば金メダルを獲得した瞬間のバックグラウンドミュージックとして使われる機会が訪れるのかな、という妄想が膨らむ。現在も各局で五輪テーマソングを何度も何度も流し続ける洗脳活動が行われているが、あそこまで繰り返しフィーチャーされる事はないにしても、人々の心の片隅にすっと入り込むような、そんなメロディーを期待したくなってくる。

もう一つは曲順だ。10曲目とあってこの『人生最高の日』、アルバムのラストを飾る『桜流し』直前の曲となっている。『健やかな産声』『私たちの続きの足音』の前段に新しい命が生まれるてくる歌があればこれ以上ないほどにしっくりくる。ここはやはり、その観点からみても、ダヌパとの事を歌った歌、或いは、それをそれをモチーフとして創作された歌詞をもつ曲、というのが穏当な予想だろう。

あとは、『人生最高』のフィーリングを言葉にする事なんて出来なかった、と言ってこの曲がフル・インストゥルメンタルな曲だったら面白いが、はてさて。ラスト曲のひとつ手前がインストなのは定番だし無理もないだろう。確かに、こんなテーマを語るなら、無闇に言葉を並べない方がいいかもしれない。いや、歌詞があったらあったで勿論楽しみなのですがね。さて、どうなって、いるでしょうか。このアルバムを最後まで聴き切った我々が「今日は人生最高の日だ」と呟く可能性が、きっといちばん高いでしょうな。それくらいにハイ・クォリティーを期待して、構わないだろうて。

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