無意識日記
宇多田光 word:i_
 



桜流しを聴いていると、「待とう。」という気になってしまう。卑怯だぞ宇多田光ッ!

という訳で何か色々言い落としてる気がするがあんまりにも進みが遅いので次のパートに行くぞ。

『Everybody finds love in the end
 もうにどとあえないなんてしんじられない
 まだなにもつたえてない まだなにもつたえてない』

例によってこれも、メロディーに合わせて改行しておこう。


『Everybody finds love in the end
 もうにどとあえない
 なんてしんじられない
 まだなにもつたえてない まだなにもつたえてない』

御覧の通りいちばんの特徴は語尾が総て「ない」である事だ。これの母音、つまり「ない/Na-i」の「a-i」を取り上げて以前「総ての終わりに"a-i"があるなら」と洒落を言ってみた訳だが、当然至極、ここは狙って各行の語尾を合わせてきている。

合っているのは最後の2文字だけではない。それより前も含めて書き出してみよう。

「あえない」→「あえあい」
「られない」→「あえあい」
「えてない」→「ええあい」
「えてない」→「ええあい」

そして、矢印の右側にそれぞれの母音を書き出してみた。1行目と2行目は、最後の2文字だけではなくその前の2文字を含めて計4文字語尾の韻を踏んでいるのだ。ここまでやるからあそこのパートの盛り上がりに説得力が出てくる。

3行目と4行目は全く同じ言葉を繰り返すだけだから韻が全く同じで当然…と、気軽に通り過ぎるのはちょっち待っち(中学生~♪<ミサトさんやないんかい)。

ここ、作詞家からすればチャレンジなのである。同じ言葉を繰り返す。作詞としてこれほどラクな事はない。新しい音韻構造を苦労して考えつく事なく、1行うまってしまうのだから。しかし、だからこそ決断は難しい。「あれ、私もしかして手を抜きたくて繰り返す気になってないか?」と疑い始めたら危うい。作詞という作業は極限状態。無意識のうちに逃げ出したいという衝動が生まれてくる。「この1行が埋まったら締切に間に合うんだ…」と自己フラグを立てようもんなら忽ちのうちに自分の判断基準が狂ってゆく。そんな中でこうやって大胆に「これで行く」という"決断"をした作詞家・宇多田ヒカルに対しては…いや聴いて感動する為にはそんな事全く考えなくていいんだけど、そういう所でもヒカルは頑張っているんだなと心動かされる人は、小さく拍手でもしてあげて下さい。ここ、本当に感動的だもんねぇ。


…やっぱりこのペースでは大変だな…でもまぁ仕方ないか…。

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『あなたがまもったまちのどこかで
 きょうもひびくすこやかなうぶごえを
 きけたならきっとよろこぶでしょう
 わたしたちのつづきのあしおと』

ひとつ指摘していなかった。「うぶごえを」と「よろこぶでしょう」の話。桜流しの歌詞でバ行の音Bは出現頻度が少ない。他には「ひらいたばかりの」の「ば」、「きょうもひびく」の「び」、「Everybody」の「bo」位だろうか。この中でも上記の「うぶごえを」と「よろこぶでしょう」は対応が明確だ。それをみてみよう。

例によって母音表示をしてみる。「ううおえお」と「おおおうえおお」になる。更にこれを恣意的に分けて書くと次のようになる。
「うう・おえお」
「おお・おうえおお」
大体ご覧の通りである。この歌お馴染みの連続同母音(「うう」「おお」)を冠に掲げ、次に「お」が来て「え」或いは「うえ」を挟んだ後それぞれ「お」の音で文節を締めている。全く同じ構造という訳ではないが、似通った母音配置であるとはいえるだろう。

例えば。「うぶごえ」は他の言葉でもよかった筈だ。歌詞の書き方によっては「新しい泣き声」とかでも十分意味が通じた筈である。それを「うぶごえ」にしたのは、ひとつには上記のような音韻構造を意図していたから、という見方もできる。

或いは逆に、「うぶごえを」の一節を入れたかったが為に「よろこぶでしょう」を配した、とみる事もできる。実際、この場所に「よろこぶ」という述語をもってくるのは文法上少々怪しい事態である。というのも、この場合に日本語に於いては当然在って然るべきな主語「あなたは」が歌詞の何処にもないからだ。

勿論、聴き手は「よろこぶ」のは誰か一聴して立ちどころに理解する。しかし、初めて聴いた時はほんの一瞬だけ戸惑ったかもしれない。その戸惑いの原因が、実はこの「うぶごえを」の一節なのかもしれない訳だ。

主語のない状態でも、例えば「よろこんでもらえる」にすれば、違和感はぐっと減る。この場合省略されるのは「あなたに」なのだが、「あなたは」が略されるよりずっとよい。それでも「よろこぶでしょう」にしたのはひとえに「うぶごえ」の「ぶ」と音を合わせる為だ。「よろこんでもらえる」では「ぶ」の音がないのだから。

はてさて真相はどこにあるか。たとえそれがわからないにしても、ヒカルの頭の中をこうやって思い巡らすのは楽しいものである。

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