残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス) | |
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講談社 |
突如としてあらわれ、正義の味方をおこなって消える謎の怪人・残酷号。
果たして残酷号の正体は、そして各国の思惑が飛び交う緩衝地帯<冷めないスープ>で進行する陰謀とは……
戦地調停士EDの事件シリーズ第五作目。
ファンタジー世界でミステリーをする、という独特なシリーズで今回は前作『禁涙境事件』に出てきた怪人、残酷号の出自と正体が明かされる話。
ファンタジー&ミステリー、という体裁は取っているが、シリーズが進むごとにだんだんどんでん返しとか謎解きとかがなくなっていき、今作にもなると探偵役であるEDの出番すら少なく、もはやミステリーものとして読むことは不可能な領域になっている。
しかしファンタジーとしては、独自の設定がいくつも出てきて面白いし、代表作であるブギーポップシリーズ同様、特殊な能力をもった怪人物たちがハッタリを利かせてたくさん登場するので「おいおい、こんなやばいやつらいっぱいでどうするんだよ」とワクワクする。
善人のいない各国の謀略も面白いし、上遠野作品の特色である怪人の悲哀も、いつも通りに中二っぽくうまく描けているのでファンなら安心の味わい。
ただ、登場人物をどんどん出して風呂敷を広げている間はいいのだが、話がまとまりだすと意外とちっぽけなところに収束して、世界観的な謎やシリーズ全体のストーリーが放置気味に終わるのがいただけない。
数年に一作しか出ないので、前作までの流れを忘れてしまうし、かといって一作できれいにまとまっているわけでもない。特に今作は前作『禁涙境事件』とリンクしている部分もあるので、続けて読んだ方がいい。のに、何年だ?四年?空いているのは非常にいただけない。
面白いし、けっこう好きなのだが、何冊かまとまるまで読まないほうがいい気がするなあ、この人の作品は。