幻想の青空

小説、イラストを投稿しています。
無断転載、引用、盗作はおやめください。

学生戦争 第一章「夏は揺らめく」

2017-04-19 17:17:00 | 企画作品:学生戦争

「はーい、今日はこれで終わりです」
短いHRが終わると生徒はそれぞれ鞄を持ち教室から飛び出していく。
その様子を横目で見て、絵凜は小さくため息をついた。
目の前に広げられた学級日誌には「本日休戦日」の文字。
開け放たれた窓から吹き込むジトリとした風が日誌のページをめくっていく。
「神礼さん、日誌、書き終わりましたか?」
「……はい」
絵凜は日誌を閉じて席を立ち、黒板清掃をしている担任――三吉勇也――の傍、教卓の上にそっとそれを置いた。
「じゃあ、帰りますんデ」
「はい、お疲れ様。また来週」
チョークの粉でところどころ白く汚れたスーツを払いながら三吉はにこやかに教え子を見送った。

・・・・・・

歴史ある建築物の間を踊るように陽炎はゆらりとたっていた。
絵凜はまるで人目を避けるかのように京都の狭い裏道を抜けていく。
そしてたどり着いたのは町はずれにある大きめの一軒家。
太陽の熱で熱された戸を火傷しないように注意深く開け敷地に入ると、郵便受けを覗き込む。
……中には何も入っていない。
郵便受けの戸を閉めて彼女は日陰へ逃げ込んだ。
「お、帰ったのか。早かったね」
玄関から顔をのぞかせたのは彼女の叔父である、宮野秀二。
普段は絵凜の一軒隣のアパートの大家としてそこに住んでいるが、なにかと世話をしてくれる人物だ。
「ただいま、叔父さん。今日は何の用で家に?」
「昨日ふと庭を見たら雑草ぼさぼさだったからな、業者を頼んでやってもらった。俺は暇だから立ち合いのついでに水やりを、な」
手に持ったホースからはちょろちょろと水が流れている。
「ああ、そろそろ頼もうと思ってたから……ありがとう」
「最近忙しそうだもんなお前。……ま、とりあえずそこ暑いだろうから熱中症にならないよう中入って飲み物でも飲んでこい。麦茶入れてあるしアイスも……」
宮野が視線を戻した先に既に絵凜の姿はなかった。

・・・・・・

少し古びた扇風機が首を振る縁側で絵凜は宮野が買ってきたというソーダ味のアイスをがりりとかじった。
日はまだ沈みそうになく、アイスが少しずつ溶け出していく。
「休戦ねぇ……」
今日一日でだいぶ日に焼けたのか、あちこちを赤くした宮野が水で冷やしたタオルを首の周りに巻いて言った。
「なんでも、戦いで倒れる人数よりも日射病や熱中症で倒れる人数の方が多いらしくて、どの軍も救命班が悲鳴を上げてるからとかなんとか」
「ふ~ん」
「命を大切にしているんだかしていないんだか……」
絵凜はクスリと被虐的な笑みを浮かべた。
「やっぱり今の時代そんなもんなのか~」
今から30年ほど前という最も酷い時代に戦争していた宮野からすれば、今の時代の戦闘などヌルいものだろう。
「教師からの体罰もないんだろう?それに、前線合宿なんてのも」
「ない。危険だから」
「ヌルいもんだなあ」
ほぼ無法地帯、と呼ばれていた宮野の時代はそれこそ生き地獄、といったところだが、現代では戦闘のルールが細かく設けられているためゆとり戦争、だなんて呼ばれている。
「と言っても、叔父さんの時代より死人は増えている」
そう、いくらルールが出来ようと、技術は進歩する。
近年の戦場で目立つのは無差別的な殺害。
例えば広範囲爆弾、化学兵器、散弾銃など、味方の犠牲をも厭わないような武器が広がっている。
「黒軍は、特にひどい。あの人でなしどもは、そんな武器ばっかり……!」
絵凜が左手に握ったネックレスには銀の指輪が通されている。
「……絵凜」
「私は、いまだに許せないんだよ。奴らが彼女を……勇輝を、奪ったことを」

絵凜の脳裏に浮かぶのは、敵の凶弾に倒れた親友の最期。

「……」
宮野が口を開きかけたときガチャリ、と玄関の戸が開く音が背後から聞こえ、彼は口を閉じた。
「ただいまぁぁぁぁぁぁぁ!!あっつ~い!」
絵凜はアイスの残りの一口を口に入れると立ち上がり玄関へ向かった。
止まっていた時間が動き出すかのように風鈴の音が空気を揺らした。
「…なんだかねぇ」
宮野は一人縁側で困り顔で呟いた。

・・・・・・

「おかえりなさい」
絵凜が出迎えたのは同級生の架音。
彼女は多少訳があり、絵凜の家に居候している。
「たっだいまぁ!あれ、みやおじ居んの?みやおじ~?」
赤子のころから絵凜と付き合いのある架音はその家族や親戚とも仲が良く、宮野とも顔見知りである。
「相変わらず騒がしいねえ架音ちゃんは」
「えへへっ」
「今のは褒められてはいないと思うけど……」
絵凜が突っ込むが架音はスルーする。
「……なんかお前ら見てると疲れるから帰るわ」
「えぇー!?今私帰ってきたばっか……」
縁側に置いていたサンダルを持ってきて玄関から宮野は帰っていく。
「現役女子高生と話したくないの?!」
「悪いけど女子高生はストライクゾーン外だから」
そう言い残し宮野は戸の向こうへ消えていった。
「むー……」
不服そうにする架音の肩をポンと叩くと絵凜は居間へと向かった。

『小説』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 学生戦争 序章「死の香り」 | トップ |   

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL