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書評『憲法を変えて「戦争のボタン」を推しますか?』(自民党の憲法草案批判)

2016年07月08日 23時53分01秒 | 書評(政治経済、歴史、自然科学)
『憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか?』 高文研刊
                                清水雅彦著

 
 著者は日本体育大学教授の憲法学者。本書は副題に<「自民党憲法改正案」の問題点>とある。改憲論の根拠に、「現憲法は日本文化に合わない」「アメリカの押しつけ押しつけだ」「時代に合わず古い」というものがあげられる。


 このうち「アメリカの押しつけではない」ことは、すでに記事にした(歴史に関するコラム)。また「時代に合わずに古い」についても「今、日本国憲法の現代的意義を問う」という記事で述べた(歴史に関するコラム)。また国際貢献の在り方、改憲が必要ないことも既に記事にした。

 改憲を主張しているのは政権与党の自民党だが、その自民党の憲法改正案を、日本国憲法と比較しながら、条文ごとに問題を洗い出したのが本書だ。


 問題点は幾つかある。

 その第一。日本国憲法にはかなり長い前文がある。ここで国民主権が明記され、民主主義の原則が丁寧に述べられている。リンカーンの「人民の、人民による、人民のための政治」という言葉も、日本独特の表現で明記されている。だが改憲案では、これが大幅に削除されている。憲法の平和条項の根拠となる、表現は全て削除されている。

 そして改正案は、日本国憲法とは異なり、国民の上に国家を置いている。

 第二。国民の基本的人権が大幅に削除されている。「公の論理」によって基本的人権も制限されうるとされる。日本国憲法に「公共の福祉」の規定があるが、この「公共」とは英訳すると、「国民」「人民」などの意味がある。自民党の改憲案には「非常事態」の章が新設され、人権の制限に道を開いている。


 第三。憲法九条は大幅に改正され、「戦争放棄」が放棄されている。さらに軍法会議は、日本国憲法で廃止された。これは軍人の犯罪を軍人が裁くために、充分に裁かれなかった教訓に基づく。戦前の5・15事件に厳罰が下されていれば、2・26事件は防げたはずだ。自民党の改憲案では「国防軍に審判所を置く」とあり、事実上、軍法会議が設置される。これは大日本帝国憲法への逆行だ。

 第四。地方自治に関する条文が大幅に削除され「法律でこれを定める」となっている。これは中央集権の強化につながりかねない。

 第五。少数で議会が開催できるなど、議員内閣制も機能が弱められている。

 日本国憲法には、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和、地方自治、議員内閣制。この五原則が大幅に弱められ、国家主義が全面に出ている。

 これに現在の自民党幹部の発言を考えれば、戦争への道を開くことになろう。基本的人権が最も侵害されるのは戦争だ。

 自民党の改憲案が、基本的人権を制限し、日本が戦争の当事者となるのを、強く感じさせる一冊だ。



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