岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

出棺の時刻となりて頃合いをはかるごとくに蝉鳴き始む

2009年11月19日 23時46分57秒 | 岩田亨の作品紹介
何年か前の真夏のある日、回覧板がまわって来た。葬儀のお知らせだった。夏の休暇を切り上げて参列した。ミンミン蝉が盛んに鳴いていた。焼香が終わって出棺を待つ間にも汗が噴きだす。
 しばらくして司会者の声がスピーカーから響いた。

「出棺のお時刻でございます。」

 その時、あれほど鳴いていた蝉がピタリと鳴きやんだ。確かに鳴きやんだ。棺が霊柩車におさめられると蝉が鳴き始めた。まるで蝉が出棺を見守っていたように。それを一首に詠み込んだ。

「作者の気づいたものはどこか切ない。」

「運河」誌上の「歌集批評特集」での一文である。「出棺」と「鳴きやんだ蝉」。このとりあわせが、暗示的だった。

「夜の林檎」に収録。



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