史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

渋川

2017年08月18日 | 群馬県
(吉田芝渓の墓)


吉田芝渓の墓

 江戸の末期から明治にかけて、渋川の地に渋川郷学(きょうがく)と呼ばれる学問が開花した。渋川郷学は、知行合一、尊王開国を説くものであった。渋川郷学の祖といわれるのが、吉田芝渓である。吉田芝渓は、宝暦二年(1752)に中ノ町で農業のかたわら糸繭商を営む吉田甚兵衛の長男に生まれ、名を友直といった。弟翠屛(すいへい)とともに北牧村の山崎石燕に学び、のち江戸に出て昌平黌の聴講生となって、天明五年(1785)には渋川村に来遊した平沢旭山に師事した。寛政五年(1793)には弟の翠屛や小作人とともに芝中の地へ移住し、五町歩余を開拓。この間に木暮足翁をはじめ多くの子弟を教育し、芝中の先生と呼ばれた。芝渓の実学の学風は足翁、高橋蘭斎、堀口藍園へと受け継がれた。著書に「養蚕須知」「開荒須知」等がある。文化八年(1811)、六十歳で没した。
 吉田芝渓の墓は、折原十二社のバス停のある交差点から南に二百メートルの場所で、弟の翠屛の墓と並んでいる。
 そこから百メートルほど東の、セメント工場の正門前にも吉田家の墓がある。こちらの墓地はすっかり雑草で覆われており、その中に埋もれるように墓石が点在しているが、どれが芝渓のものかはっきり分からなかった。


吉田芝渓の墓


吉田芝渓の墓?

(堀口藍園の墓)
 市役所通りの上郷交差点から東に百メートルほど入ったところに墓地があり、そこに堀口藍園(らんえん)夫妻の墓がある。樹齢約六百年といわれる大きなケヤキが目印である。


堀口藍園の墓

 堀口藍園は、文政元年(1818)に裏宿の紺屋堀口柳蔵の長男に生まれた。木暮足翁、高橋蘭斎、僧周林らに学び、また江戸から関西を遊歴し、尊王の志士、学者、文人と交わって識見を養い、学問(儒学)、徳行、家業、芸術の調和を図った。家業のかたわら塾を開き、実学の精神をもって門弟を教育し、門下生の中から明治・大正期の地方指導者を多数輩出した。明治維新後の大変革に際し名主になったり、上野総鎮撫使より群馬、勢多、利根、吾妻四郡の天領の総長や村童教授に任じられたり、熊谷県令より学区取締に任じられて行政教育に大きな貢献をした。明治二十四年(1891)、七十四歳にて没。

(堀口藍園生誕地)


堀口藍園生誕之地

 堀口藍園は、渋川宿の染物業堀口枡蔵の長男に生まれた。生家跡には、生誕之地と大きく書かれた看板が建てられている。

(真光寺)
 真光寺の墓地に木暮足翁の墓がある。


真光寺


木暮足翁の墓

 木暮足翁は、渋川南町に完成元年(1789)に生まれた。通称を五十槻、名は賢樹という。吉田芝渓、竹渓、屋代弘賢などに学んだ足翁は、子弟の教育にあたり、「横町の先生」と呼ばれた。医学を紀州の華岡青洲に学び、天然痘の予防接種を行うなど、地域医療に貢献した。高野長英に蘭学の教えを受けた。文久二年(1862)、七十四歳で没した。

(偏照寺)


偏照寺

 木暮足翁の墓がある真光寺と高橋蘭斎の墓のある偏照寺は、背中合わせとなっている。周囲は住宅で囲まれ、細い一方通行の道路を行かなくてはいけないが、両寺院とも駐車場が完備されているのが嬉しい。


高橋蘭斎の墓

 偏照寺の古い方の墓地のちょうど中央に高橋蘭斎の墓がある。今回、蘭斎の墓の場所について、事前に渋川市文化財保護課に問い合わせ、ご教示いただいた。
 高橋蘭斎は、寛政十一年(1799)に渋川村裏宿に生まれ、通称を茂右衛門、号を可度、勇魚ともいった。木暮足翁に和漢を、さらに巡遊してきた近江の人大寂庵立鋼(りっこう)に和歌を学んだ。農家で馬問屋を兼ね、名主も務めたが、医師を志して江戸に出、宇田川榕庵に蘭医学を学んだ。その後、帰郷し医業のかたわら塾を開き、堀口藍園ら多くの門弟を養成した。明治十五年(1882)、八十四歳にて没。

(後藤家)


後藤家


小栗上野介日記及び家計簿

 渋川市内の後藤家に小栗上野介の日記および家計簿が伝えられている。小栗の日記は二冊、家計簿は四冊。日記は慶應三年(1867)と同四年のもので、慶応四年(1868)に烏川で斬首された四日前までの百二十日分で、幕末の慌ただしい中で、大官名士の往来の状況が記されているという。家計簿は嘉永三年(1850)から文久三年(1863)までのもので、幕末旗本の経済状況を知る貴重な資料となっている。

(渋川八幡宮)


渋川八幡宮


堀口藍園翁碑
手前は堀口藍園贈位碑

 渋川八幡宮に堀口藍園の顕彰碑とその前に贈位記念碑がある。
 堀口藍園は、吉田芝渓から始まる渋川郷学の流れの終着点に位置付けられる人物である。維新後は渋川宿にて金蘭吟社を開いて後進の指導にあたったが、門弟は千人を越えたといわれた。

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