逃げた

　前回『近況』で書いた一緒に仕事している人が逃げた。

　昨日が納期だった作業。ほぼ二ヶ月の作業期間があったのに、納期一日前の夜に「やっぱりできない。明日は来ない。後はよろしく」と告げて帰った。
　僕は意味が分からなかった。いや、言葉の意味は把握したけれど、「そんなことをするわけがない。悪い冗談だ」と思った。

　でも彼は本当に来なかった。


　すでに作業のほぼ全部を僕が引き取っていた。彼に残されたのは、LEDを点灯させるだけ。一行、10文字程度を追加すればよい。どうすればよいかも説明した。動作確認を含めても数分の作業。

　最初から僕がやっても構わない。そんな作業を彼に残したのは、そうしないと彼の労働の成果が、1文字1バイトも納品物に残らないから。

　彼と一緒に仕事をし始めて8ヶ月。まだ彼から意味のあるアウトプットはない。彼が書いてきた2つの仕様書は、インターネットや他の仕様書から書き写したみたいで、内容がズレた長文は役に立たなかった。しかたなく僕が一から作り直した。そしてプログラムは1文字も書いていない。


　彼の能力に怒ってるわけじゃない。嫌になるのは、彼が完成に向けて努力をしないこと、ギリギリまで相談しないこと、そして逃げること、だ。

　彼はいつも一日中、画面に向かってゆっくりと数文字書いては消している。僕が「どうですか? 順調ですか? 何か分からないで困ってますか?」と聞くと、「順調だよ。そうだ、ちょうどよい。ここを教えて」と彼が答える。内心、僕が書いた仕様書を読んでないのかな、これ聞かれるの何度目かな、彼の作業とは関係ないな、と思いながら説明した。



　あー、本当に嫌になった。