姉さんパロロワなんたら

某GR2のあの人のブログ2代目ー今度こそロワの雑感などかなりゆるくーいきますー。後は自分ロワは公開しますですー

2008-11-08 23:10:21 | 自分ロワ用
さて、4作目です。
地図氏がトウカしてくれました。
有難うございます!
この場において限りない謝意を。

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【桜】


薄紫色の世界。

漆黒の空を藍色に滲ませる白い月光。降り注ぐそれを受け止め淡く輝くのは幾千幾万の桜の花弁。
さやさやと流れる透明な川に沿い延々と並び立つ桜の木。
その季節と思うにはいささか冷たい空気の中、桜は満開に咲き誇り、花弁は宙をゆうらりと舞い地をその色で染めている。

永遠に続くのではと錯覚させるような美しく幻の様な世界。そこに一人の少女が存在した。

古びた木の腰掛に座っているのは、薄い色の髪の毛を風に梳かせるままにする一人の舞姫。
美貌と大人びた所作から年齢よりかいくらかは上に見られる彼女の名前は――藤乃静留。
私立風華学園高等部3年3組に在籍し、同学園の生徒会会長を勤める才媛である。

「……――ほんまに綺麗どすなぁ」

薄紫に輝く夜桜を見上げ、彼女は生まれた地で身につけた言葉で感嘆の意を零した。
まるで夢現の様な光景。
もし本当にこれが夢ならば醒めるまではずっとこうしていたいと彼女は思ったが、しかしそうで無いとも知っている。
視線を更に上へと、天上の満月を見上げ目を細めると、彼女はゆっくりとつい先程の事を回想し始めた――


 ◆ ◆ ◆


一番最初に知覚したのは頬に当たる床の冷たさ。
気付きから覚醒。それから冷静に周りを観察する思考力を取り戻すまでに時間は必要としなかった。
固い床に這ったままの姿で静留はゆっくりと様子を窺いはじめた。静かに、蛇の様に。

ほとんど無音の世界。僅かに聞こえるのはいくつかの吐息。
どうやら寝かされていた者達の中でも自分は割かし早く覚醒したほうだったのだと、
後から振り返り静留はそう思った。

とりあえずは様子見にと、周りの者達が起き上がってくるまでの間を静留は記憶を辿る時間に使った。
紛う事無き拉致。いついかなる方法で自分はそうされたのか。
身につけているものが風華学園の制服であることから修学中のことであったと解る。
それを取っ掛かりに靄のかかった記憶の中を探り、その瞬間へと少しずつ近づいてゆく。

窓の外の喧騒。対して静かな生徒会室。お茶の葉を急須に移して……なつきを待っていた頃合か。

学園の昼休み。行く当て所無い玖我なつき――親友である彼女が生徒会室に来るのは定例であった。
孤高な彼女の学園内における唯一の拠り所がそこであり。そして彼女を迎えるのが静留の幸せでもある。
しかし、記憶の中になつきが扉を潜って現れたシーンはない。
その瞬間の記憶は見つけることはできなかったが、恐らくは出迎える用意をしている時に拉致されたのだろう。

身体の中にある僅かな軋みは固い床に寝かされていたせいか、となると薬でも嗅がされたのかもしれない。
と、静留がそこらまで考えた頃には暗闇の中も少しは騒がしくなっていた。

さも、今気付きましたという風で静留も身体を起こし、あたりを窺う。
広さが正しく測れない暗闇の中には多くの人間が存在した。百は超えるか超えないか、それぐらいの人間が。
闇の中でも目が届く程度を見渡し、そして聞こえてくる声を判別すればどうやら同年代の少年少女が主らしい。
会話の内容を吟味すれば無縁の人間ばかりでもないだろうということが解る。

もしかしたら自分の見知った人物もいるのだろうか……そう考え視線を走らせ始めた時、白光が静留の目を貫いた。

痛みを覚えた目を再び見開いた時、暗闇だった場所の奥はスポットライトの明かりで白く切り取られており、
そのスペースに一人の長身の女性と、能面を被った少女の集団が現れていた。

伊集院観影と名乗った長身の女性は、羽織ったマントの内側から拳銃を取り出すと宙へと撃ち喧騒を掻き消した。
そして、――殺し合いをしてもらうと、ただそれだけを、冷徹に宣告、した。

最後の一人になるまで殺し合いをしてもらうと――……


 ◆ ◆ ◆


桜の木の下で静留は一つ小さな溜息をつく。
殺し合い――最後の一人を決める競争(ゲーム)――思うところが無いわけでなく、複雑なものが心中にあった。

胸元から生徒手帳を取り出すと、メモと書かれたページを開き付属の小さなペンで文字を綴ってゆく。

 ・最後の一人になるまで殺し合いをする。
 ・殺し合いの停止や、途中棄権は認められないし不可能。
 ・6時間ごとに進捗を知らせる放送を流す。またそこで禁止エリアの指定も併せておこなう。
 ・禁止エリアに侵入すると嵌められた首輪が爆発する。
 ・首輪は無理に外そうとしても爆発する。また、主催者に歯向かう行動をとっても爆発する。
 ・24時間連続で死者が出なければ全員失格とし、全員殺される。
 ・配られる支給品には当たり外れがあり、中には弱者が強者に勝てるような当たりも存在する。

それは伊集院観影より説明された殺し合いにおけるルールだった。
記憶力に自信が無い訳ではないが細かいことはあやふやになるかもしれないと、静留は記憶が確かな内にそれを記した。

一つ、禁止エリアなるものがいまいちはっきりとしなかったが、
名前からある程度のことは推測はできるし、放送で知らされるというのなら改めて説明もあるだろうと今は無視することにする。

そして、パタリと生徒手帳を閉じると静留はそれを再び胸元へと仕舞い直し、空いた手を喉元へと伸ばした。
夜の空気に冷やされたそれはとても冷たく、厳格で容赦が無いと、そんな印象を指先へと与える。

戒め。銀色の枷。運命の輪。人一人分の檻。当て続けられる死神の鎌。透明のギロチン台。

殺し合いの参加者に等しく嵌められた首輪を一撫ぜすると、静留はまた意識を過去へと遡らせ惨劇を回想する――


 ◆ ◆ ◆


長身の女性が一通りの説明を終えた後に現れたのは、白髪の陽気な口調の少年であった。

しかしそれが真実少年なのかそれは定かではない。
彼が何者なのかは解らない――それを静留は知っていた。

凪と名乗った少年は気付いてか気付いていないのか静留に目を向けることもなくセレモニーを進める。

見た目通りの少年らしい声を大きくし、その場にいた全員にそれを知らせた。
曰く――殺し合いの優勝者はいかなる望みをも叶えてもらうことができると。
欲望にしろ願いにしろそこに不可能は存在しないと、まるで子供の言うことのように。

あまりにも荒唐無稽なことに、暗闇の中の者達の間に動揺と困惑の空気が満ちる。
今日日、三流の詐欺師であろうとももっとましな嘘をつくだろうと、静留もそんな感想を抱いていた。
それは少年自身も解っていたのだろう。すぐに彼は証拠を――賞品の一端を一同に披露した。

指を鳴らす小さな音。間をおかずして後ろに控えていた能面の少女の一人が爆散した。

血は線を引いて虚空を走り肉片がそれに追従する。遅れて身体の内に篭っていた熱が続く。
人の身体にどれだけの血が流れているのかがよく理解できるほどに白かった床は真紅に染まり、
人の身体がいかに多くの部品で構成されているのかを教えてくれるかの様にそれは広く散らばり、
人という存在がいかにおぞましいモノを内に抱えているのかを知らしめるように悪臭が端々まで届いた。

叩きつけられた死という事実に衝撃を受け言葉を失う者。
嗅ぎ取った死の臭いに拒否反応を起こし嗚咽を漏らす者。
足元を漬した死の温度に心を震わせ悲鳴を上げる者。

そして、少年がもう一度指を鳴らした時、その死は幻となった。


 ◆ ◆ ◆


再び桜の木の下。
今度は大きな溜息をつくと静留は宙に浮かぶ真白な月を改めて見上げた。

そこに彼女――HiMEの運命を束縛する紅い妖星――媛星は存在しない。

藤乃静留を始めとする風華学園に在籍する生徒の一部には普通ではない運命と力を背負わされた者達が存在する。
有り体に言えば儀式の参加者。
宿命づけられ、決して逃れられることのできない闘いの舞を踊らされる12人の乙女達。
今目の前に存在する殺し合いとそれは大きく変わらない。そして、

その星詠の舞へと静留を引きずり込んだ張本人こそがあの白髪の少年――炎凪であった。



「……ウチ、謀られとったんやろうか」

HiMEは媛星の為に闘う事を強要される。しかし、その媛星はこれも幻の様に消え去っている。
星詠みの舞そのものが出鱈目だったのか、それとも何らかの事情で儀式を別のものへと変更したのか。

「馬鹿らしおすなぁ……」

死者蘇生など今の今までおくびにも出さなかったのにここに来て簡単にできますとはどういうことだろうか。
それが本当ならば乙女達の決意も悲しみも全てが道化のそれと変わらなくなってしまう。

「ウチは信じまへんえ」

自らに言い聞かせるように静留は一人ごちる。
いかに証拠と言われても、生き返った能面の少女はあちら側の手駒。
いかな種が隠されているか、はたまた本当に人間なのかも甚だ怪しいこと極まりない。
もしあれが実体化能力によって作られたオーファンやチャイルドに似たものならば説明はあっさりついてしまうのだ。

なにより……、実際になんでも叶えられる力などがあるはずもない。
仮にあったとしてもそんな力をそう易々と与えてくれるものだろうか?
もしこの殺し合いが儀式で力を得るのにそれが必要と言うのならば、やはり力を得るのはあちら側だろう。

「悪いけどウチはもう乗せられまへん……ここは、おんりや」


藤乃静留は始まってより早々に殺し合いを放棄した。


 ◆ ◆ ◆


……――とはいえ、殺し合いの舞台に囚われていることは変わりない。


「先々のことはゆっくり考えることにして……、まずは生き残るいうこと考えんとあかへんね」

拉致された方法も、あの暗闇から一瞬で移動させられた手段も不明。
首に嵌った爆発する首輪にしてもどうすれば外せるのか皆目見当もつかず、また外せるものなのかも判らない。
逃げ出そうにも反乱を起こそうにも今はどちらの可能性も砂粒ほどにも存在はしなかった。

癪ではあったが、あちら側の用意した舞台は今回もよくできていると認めざるを得ない。
ということで静留はここにきてようやく殺し合いの参加者としての行動を開始した。


足元に置かれていた真黒なデイパックを持ち上げ膝の上に下ろすとそれを丁寧に検分してゆく。

まず最初に外側のポケットから出てきたのは地図とコンパス。それと何枚かの紙と鉛筆がセットになった物であった。
とりあえずは地図を広げてみて、静留はここで初めてこの舞台が四方を海に囲まれた島であることを知る。
そして、地図の中に”桜並木”と書かれた場所を見つけ、そこが恐らく今いる場所なのだろうと当たりをつけた。

そして次に出てきたのはまた一枚の紙であった。
折りたたまれたそれを開き、そこに書かれているものを確認して静留の目つきが神妙なものへと変化した。
それはただ名前だけが連ね記されているだけであったが、”全参加者名簿”と書かれていればその意味合いは大である。

「――なつき、も」

親友の、そして密かに想いを寄せる少女の名前を静留は呟く。
やはりあの時に思った通りに自分の知り合いも何人かがここに連れてこられていた。
”――高村恭司、鴇羽舞衣、玖我なつき、美袋命、天河朔夜――”
なつきを除けばそれほど親しい間柄でもないが、しかしそのほとんどがHiMEとなると気にかかる。

不意に静留の片手の内に仄かに青白い光を放つ一本の鞭が現れた。

エレメント――HiMEの持つ高次物質化能力によって生み出される闘う為の祭器。乙女の為の武器である。
それを一振りし、いつものものであることを確認すると静留は次に虚空へ”清姫”と呼びかけた。
しかし何も起こらない。彼女の呼びかけに応える気配はそこに存在しなかった。

「HiMEとして御役御免ということはないんやろか……、せやけどえらい半端どすなぁ」

大きな代償を必要とする清姫――チャイルドの力が無いならばそれはそれで安心だと静留は苦笑する。
HiMEが想い人の命を触媒として召喚する魔獣は絶大な力を誇るが、しかし倒されれば触媒となった人間を失ってしまう諸刃の剣だ。
彼女の場合、その対象となるのは愛する久我なつき。
ここで命を落とすつもりなどは毛頭ないが、それでも己の死によって愛する人が巻き添えにならないのは安心材料だった。


エレメントを虚空へと解かし再び手の内を空とすると、静留は途中だった鞄の検分を再開する。

ついに鞄の口を開き、最初に出てきたのは何の変哲も無い腕時計だった。
無駄な機能の一切ないアナログ盤の腕時計。
趣味に合うものではなかったが時間を知るのも重要なことならばといくらか警戒した後、皮のベルトでそれを腕に巻いた。

そして続けて出てきたのは、バッテリー式のランタン。
ちゃんと機能するのかと一度二度スイッチを押し、シャッターで光が絞れることを確認すると夜の供としてそれを脇に置く。

「えらい、ぎょうさん…… ……こんなん。 …………?」

次に出てきた”鞄の中には入りきらない量”の食料に静留は面をくらう。
鞄の中を覗き、そして何度か食料を出し入れしてみて鞄の内側が外側よりも随分広いことを確認すると、
しょうがなくといった風か、薄ら笑いを浮かべて静留はその奇妙な現実を受け入れた。

「せやけど……こないにあるいうことは、それだけ時間がかかると見てはることなんやろうか……」

桜の花弁が絨毯となっている地面の上に並べられた食料は相当な量であった。
特別少食だったりダイエット中だったりという訳ではないがそれでも食べきるには3日や4日ではきかないだろうと静留は目測する。
これが言葉に出したとおりの意味なのならば随分と気が滅入る話ではあった。

見ているものが悪夢と解っているのならば、誰しもがそれが早く終わることを望むのだから――


 ◆ ◆ ◆


雨のようでいて、しかし遥かにゆっくりと舞落ちる桜の花弁。
その間を白刃が幾度となく閃き、風切り音を鳴らして落ちる花弁の数を何倍にも増やしていた。

ひゅう、ひゅうと身の丈ほどもある大薙刀を虚空に振るい、静留は独り舞い踊る。
桜の花弁をよどみなく撫で切るその太刀筋は決して付け焼刃には見えない。
月光を跳ね返す刃の残光が残す軌跡は空を走る白蛇の様で、もしそこに獲物がいたならば膾にされていることが容易に想像できる。

十数分ほどであろうか、名家の娘として稽古事として培ってきた技術が正しく使えることを確認すると
静留は呼気を整えなおし大薙刀を桜の木に立てかけて腰掛へと戻った。

「備州長船兼光……言うたら骨董品や思うたけど、どうして使えるもんどすなぁ」

それとも名前だけの新品なのか、とそんな感想を大薙刀に聞かせると静留は最後の支給品を手に取る。
それは何の変哲も無いただの折り紙だった。
数は百枚ほど、色はとりどり……殺し合いに使えるはずもなく、言われていた外れかと納得せざるを得ないものだ。

その中から一枚。愛する人の髪の毛と同じ藍色のものを取り出すと、静留はその裏の白い面に何かを書き綴る。
次に鉛筆で端に穴を開け、また別の紙で撚ったこよりを通すとそれを桜の枝の一つへと吊るした。

「こないなことをしても無駄かも知れへんけれども……、まぁせえへんよりかはええやろうし」

クスリといたずらじみた笑みを浮かべると、静留は支給品を詰め直した鞄を背負い、立てかけていた大薙刀を取り
片手にランタンを吊るすと桜並木を北へと向かいゆっくり歩き始めた。



少しずつ遠くなってゆく静留を後姿に手を振るが如く、藍色の折り紙はゆらりゆらりと揺れている。
そこには短くこう書かれていた、



”――――いつもの場所で。  静留より”




【C-3/1日目 深夜】

【藤乃静留@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備:大薙刀(備州長船兼光)】
【所持品:支給品一式×1、こよりの折り紙@sola】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:なつきを探す (最終的な目的は保留中)
 1:B-2の学校に向かい、いつもの場所(生徒会室)を拠点として確保する。
 2:道中、また↑の後、なつきの目に留まりそうな場所にメッセージを書いた折り紙を吊るす。
 3:誰かに出会えば適当に対処。降りかかる火の粉ならば容赦なく払う。

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1 コメント

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Unknown (うっかり氏のうっかりを知らしめる会会長)
2008-11-24 20:25:49
一風変わった部分にスポットを浴びせた作品ですね
OP時や拉致される寸前にどう行動していたか、という、普通なら全く触れられずに終わりがちな部分を、自然な流れで語っている
一方でチャイルドやエレメントについて最低限の説明をしているのも、読者に優しいと思いました
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