愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

愛媛唯一の囃子屋台~新宮村素鵞神社~

2011年11月07日 | 祭りと芸能
旧新宮村(現四国中央市)上山の素鵞神社の秋祭りは10月最終日曜日に行われる。ここでは写真のような屋台(地元ではだんじりとは言わない)に小中学生が乗って、太鼓、笛、鉦などを囃す。愛媛でこの形態の屋台は唯一である。囃子といえば西条のだんじりにも見られるが、このように乗り子に公家風の衣装に髭を描く化粧をするのは愛媛でもここだけである。全く類例がない。しかも、この屋台は車がついている曳き屋台である。愛媛は南予地方や大三島以外では曳き屋台は少なくて、担ぐだんじり、太鼓台が主流である。飾りも簡素であり、刺繍や彫刻はあまり施されていない。一見、地味ではあるが、これは乗り子の囃子を「見せる」、音で魅せるという屋台であり、刺繍や彫刻で魅せるというだんじり、太鼓台とは一線を画すものといえる。この新宮上山は東予地方であるが銅山川流域なので、民俗文化領域としては下流の徳島県とのつながりも考えられる。事実、徳島県の東祖谷や木沢には同様の形態で、髭の化粧をする屋台が見られる。

この新宮上山の屋台は、乗り子の小中学生が地元では集まらず、上山以外の新宮各地から呼んでいる状況であり、継承の危機にあるという。しかし、実際に現地の祭りにうかがってみると、子供は少ないが屋台を動かしたり、囃子の際に周りで唄う熱心な大人が多く、祭りの存続については外部の眼で見たかぎりでは危機的状況といいつつも、祭りの継続意欲の高さを感じた。

この屋台行事は、愛媛県では唯一の文化遺産であり、類例がない。四国中央市の無形民俗文化財にも指定されている。愛媛の祭礼文化を語る上では欠く事のできない祭りである。今年は地元放送局の取材も入っていて、近日中にニュースの中で特集されるらしいが、もっと多くの人に注目してほしい祭りだと感じた。

都市の祭礼もいいが、山間部で昔ながらの祭り、しかもそこにいろんな屋台、囃子、化粧などいろんな文化が流入して今に継続されている。それを地元の方々が支えている。地域の結集の在り方が祭りを通してよく見えてくる。そんな祭りは地区以外の周囲から注目されてしかるべき現地にうかがって、お話をうかがって、そんな感想を持った。



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