ミリオンズ
監督:ダニー・ボイル
出演:アレックス・エテル、ルイス・マクギボン、ジェームズ・ネスビット、デイジー・ドノヴァンほか
脚本:フランク・コットレル・ボイス
ストーリー
舞台は英国北部マンチェスターと北西部リヴァプールのあいだの町。小学生のダミアンは母を亡くし、兄と父と共に新築の家に引っ越してきた。引越しのダンボールを使って、線路脇の空き地で秘密基地を作ったが、ある日、大金がはいった鞄が飛び込んできた!信心深く聖人博士でもあるダミアンと、現実的な兄アンソニーは、それぞれお金を守りながら、通貨切替でポンドが不要になる前に使いきろうとあれこれ考える。
通貨がポンドからユーロに切り替わる直前の数日間に、大金を手にした幼い兄弟が出会う「奇跡」と「希望」を描いた優しい映画。
コメント
Millions。 2004年 英=米映画
トレイン・スポッティングの監督が、自分の子供も見れる映画を作ったとのことらしいです。優しい映画。
大金とどう向き合うか、という道徳的な話を、押し付けがましくなく、ナチュラルに描いています。
高級住宅地ということですが、ゲームやテレビなどを購入できる少し余裕のある一般庶民の家族の物語(階級設定はやや米国的?)。それでも線路や電車が物語に絡んでくるのは、もしかしたら英国の誇り? いえ、米国にも子供達と線路が関係している映画は沢山ありますからね。まあなんというか、「トレイン・スポッティング」や「リトル・ダンサー」のように、ことさら英国階級社会がうるさく描かれていませんので、それほど社会的意識を高くもって見なくても大丈夫。心の映画です。
キリスト教の聖人が出てきます。ダミアン少年が話しかけているのをみると、絵画などでおなじみの方々と、自分もお話した気分になれます(わりと気さく)。クリスマスの降誕劇も楽しかったですね。ロバをひいてあるくキリストの父・ヨセフに扮するダミアン少年。ヨセフ本人(?)に演技指導を受けてました!
信じる心をもっていれば人は強くなれると死んだママは少年に言いました。信じる心があるから聖人がほんとうに見えてるのだろうなぁと思いますが、端から見ればおそらくただの幻視なのでしょうね。このあたりは、英国を代表する詩人であり銅版画家(?)であったウィリアム・ブレイク的だなぁと勝手にこじつけたりしてみます。ブレイクも神様の幻視を見たそうです。
公式HPを見ていると、監督は「…(前略)… 英国は過去に縛られがちだ。前に進むことや、新しい世界に飛び込むことを躊躇し、抵抗する。でも、物事には別れを告げなければいけないこともあるし、それは決して悪いことではない、ということをこの作品で描きたかったんだ。…(後略)…」と語っているようです。でも故郷北西部への愛は確かに感じますが、もっと広く普遍的な現代の英国人、ないしは現代人へ開かれた映画づくりになっていると思いました。
そういえば、ここでふと思い出すのは、むかし池田潔という人が書いた『自由と規律』という本です。うろ覚えですが、たしか冒頭あたりに、英国鉄道が王立から(国営から?)国営へ(民営へ?)変わったときの英国人たちの反応が書かれていました。鉄道はまさに英国人の誇り。合理化すべき現状は理解できても伝統的な忠誠心から国民は猛反対し、デモなどが激しかったということです。しかし、英国で学んでいた池田が見たのは、厳戒態勢で迎えられた合理化初日の列車運行時に、あれほど反対していた人々が気持ちをすっかり切り替えて新しい歩みに花を掲げ、手を振ってその発車を見送ったことでした。池田は英国人の伝統主義的な部分と、一旦結論が出されて、そこに合理的な理由が見出せれば、あれほど固執していた伝統主義をひるがえして新たな手法を受け入れられる合理的思考を感じ取った…というようなことが書かれていたように思います。
苔生さぬよう常に転がりつづけるその精神、英国にありですね。ボイル監督の気持ちもそんなところにあるのでしょうか。
ところで、先ほども述べた降誕劇のとき、「ラパパンパン」という歌を子供達が合唱しています。これは20世紀のアメリカ生まれのクリスマス・ソングで、70年代にビング・クロスビーとデビッド・ボウイのコラボしたことで世界的にも有名な曲だそうです。
曲の内容は、イエス・キリストの誕生を祝うための贈りものがない貧しい少年が、代わりにドラムを叩いて贈りものにしたというもの。だからドラムの音がメロディーの背景に流れます。同じような逸話はフランスにもあるそうで、パリのノートルダム大聖堂の信心深い修道士が、何か捧げたいが貧しさのため捧げるものがなく、得意のジャグリングをマリア像に捧げたそうです。周囲からは神への冒涜だと非難されてしまいますが、修道士のもとに聖母マリアが光臨し、微笑んで祝福したという話があるそうです(この二つはネットサーフィンで得た情報です。正しいかどうか分かりませんので皆さんでもいろいろ確認してみてくださいね)
でもなんだかいいお話!映画にもマッチしてます。
それでは、どうかみなさんも良い年末を。
とりとめのないことばかりですが、これからもなにかと書いてみてます。
考えが練れてないことも多いですが、どうか来年もお許しを。
年内あるいはお正月休みに時間があれば、また記事upします。
2008.12.22