からくの一人遊び

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愛情物語7

2016-09-18 | 音楽
7. クリスマスイヴ①

1992年12月24日のクリスマスイヴのことを私は決して忘れない。

それは私が人生最大の“イベント”を手掛けた日であり、恐らく陽子の脳裏にも深く刻まれた一日になったのだろうと思う。

私が仕掛けたそれは、今にして思うと顔から火が出るほど恥ずかしいことで、考えようによっては非常に陳腐なことなのだけれど、その当時の私にとって、彼女に思いを伝えるにはそういった思い切った行動に出るしかなかったように思う。

今、こうして私の隣に陽子が存在することを考えればあながちそれは、間違いではなかった。いや、それによって私たちが思い出を共有できたことは非常に喜ばしいことであったのだ。

私は過去の自分に感謝しよう。

そしてもう一度目を閉じ思い出すのだ。

過去へ、過去へ・・・・・・。

そう、過去へ戻って。




その日私は”街“の駅にいた。

陽子とは19時に駅で待ち合わせをしていて、30分前には駅に着いていた。

私は改札口横の待合室の椅子に腰かけながら、駅の構内を行き交う人々を何とはなしに眺め、サラリーマン風の男たちがケーキの入った四角い箱を手にするのを見、ところどころに飾られたイルミネーションを見るにつけ、あらためて今日はクリスマスイヴなんだなと実感していた。

ふと隣をみると、小さな女の子が私を見上げて笑いかけてきた。

きっと、彼女も今日は楽しい気分なのだろう。

私はそれに応えるべく最高の笑顔を作って応戦したが、気に入らなかったらしく彼女はぷいっと顔を隣の母親の方に向け、身体を寄せてしまった。

やっちまったかな?

何事かとこちらを睨む母親の視線をいそいで避け、私はスーツのポケットから或る鍵を取り出し手のひらに乗せた。

“鍵”はその日の主役であった。

私は手にした鍵をしばらく眺めていた。



陽子から会う約束を取り付けてから、私は12月24日という日を心待ちにしていた。

カレンダーの一日一日に×印を付け、あと何日と数えながら過ごしていた。

そして日が近づいてきたある日、ふと姉の「恋愛はゲームよ」という言葉が頭に浮かび、ただ会ってお洒落なレストランに行くだけでは何かが足りないと気づいた。

これでは足りない。何かをしなければ。

私は考えた。そして考えに考え抜いた末にたどり着いた結果が、その鍵に秘められていた。

言わばその鍵がイヴの日の秘密兵器だったのだ。

私は眺めるのに飽きると、ポケットに再び鍵を忍ばせ、待合室の時計を見た。

そろそろだな。

私は陽子を迎えるために、ゆっくりと立ち上がり、待合室を出た。

臨戦態勢OK。

私はそう独りごち、改札口の前でネクタイの紐を固く締めたのだった。



THE PRETENDERS - Message Of Love

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