必然の出会い (5)

B-1グランプリなる競技会があるらしい。
全国の「B級ご当地グルメ」を持ち寄り、その人気を競い合うらしいのだが、そこで二年連続グランプリを獲得したのが「富士宮やきそば」。
日本全国、ありとあらゆる祭りやイベントで、「焼きそば」はもはや欠かせない国民的ファストフードだ。B級グルメの四番バッターと呼んでもいい。
もし私が「B級グルメ」のクリーンナップを挙げるとすれば、三番・ハンバーガー、四番・焼きそば、五番・たこ焼きといったとこだろう。五番・たこ焼きのところは人それぞれ、意見が分かれるかもしれないが、三番、四番は不動ではなかろうか。

ファストフード焼きそばの基本はウスターソースを使った「ソース焼きそば」である。
そもそも「ソース焼きそば」のルーツは関西のようだ。どうも関西人はウスターソースがお好きなようだ。
関西人である私は、塩、胡椒、醤油と並んでテーブル調味料としてウスターソースは、どこの家庭でも必携品だと思っていた。たこ焼き器も炊飯器と共に、すべての家庭に常備されている調理器具だと思い込んでいたように。

串カツ、コロッケ、目玉焼き、キャベツの千切り……。関西人の特に年配のオヤジは、何でもウスターソースをかけたがる。カレーライスにもウスターソースをかける。ただ、これは難波の老舗、自由軒のカレーが影響しているのではなかろうか。ここのカレー、関西では昔から超有名なのだが、ウスターソースをかけて食べることを前提に味付けしてあるらしいのだ。

(カレーライス+生卵)×ウスターソース=自由軒のカレー

関西のオヤジを知る手がかりとなる公式が、またひとつ解き明かされた。


                         ◇


「焼きそば ダーウィン」も、この「ウスターソース系焼きそば」である。
私が初めて口にした時の「おいしー」の正体は、どうもこの「トロピカルソース」にあるようだ。
この「トロピカルソース」、基本的にはウスターソースなのだが、一言でいうとフルーティーなのだ。原材料のトマトや野菜にキウイ・パパイヤ・マンゴーを加えて、最終工程で『君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね』を聴かせながら、じっくり熟成させていると噂されるものだ。だから、熱湯で湯戻しされたマンゴーの果肉に、このフルーティーなソースが絡まって、よく馴染むのも当然といえる。
この芳醇でフルーティーな香りが口の中に広がる様子をあえて例えれば、ジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長が剣を振りかざして痛快にカリブの海を暴れ回るような味といえば分かりやすいだろうか?
え?分かりにくい?つまり、その、ジャック・スパロウ船長である。決してチョコレート工場長ではない。そんなワイルドでパイレーツで痛快な味なのである。ひとくち味わうだけで地球の裏側まで「インナートリップ」できてしまうミラクル・テイストといえば分かってもらえるのだろうか。


「焼きそば食うて夢は枯野をかけ廻る」(いわ蕉ー)


「B級グルメ」では「B級俳句」しか出てこなくて悪かったなあ。
自嘲気味な気分が、私に冷静さをよみがえらせてくれた。
すると、それまで気がつかなかったことが、ひとつ、またひとつと目に付きだした。

この「焼きそば ダーウィン」。よく見れば見るほど、なんとも「不思議なピーチパイ」なのである。
まず、普通なら食品衛生法やJAS法で定められている「賞味期限」の刻印がどこにもない。「JISマーク」や「栄養成分表示」すら見当たらない。バーコードがないのも不思議だ。いまどき、バーコードがなければスーパーや量販店で取り扱ってもらえないだろうに。
そもそも製造者名すら見当たらないというのはどういうことだ?
考えてみれば、これを買った「平田商店」というのも不思議な店だった。
見るからに古い佇まいであるから、最近、出来た店じゃないのは確かだけれど、昔から通りなれてる商店街なのに、記憶にないというのもおかしな話だ。


もしや……


それが何なのかは分からないが、薄ら寒いものが去来した。
結局、その夜はなかなか寝つけなかった。



                         ◇




次の日、どうしても気になった私は、仕事帰りにもう一度「平田商店」に立ち寄ることにした。昨日とほぼ同じくらいの時間、私は「日の出通り商店街」の入り口に立っていた。
そして、昨日と同じ方向に歩いていた。
すでにかなりが店じまいしていた。
しばらく行くと、いつもの「ヤングカジュアル 岡田洋品店」が見えてきた。
店をのぞくと、これまたいつもの店主が仏頂面で奥のほうに腰掛けていた。
ここのところ、よっぽど業績が芳しくないのか、見るたびに眼の下のクマが濃くなっているようにみえる。この日は、「よしたけ」と書かれた名札をつけた店員に、なにやら説教を垂れているようだった。

それから五、六軒ほど先に確か……。

ん?そこはすでにシャッターが下りていた。
もう一度「ヤングカジュアル 岡田洋品店」まで戻って、数えなおしてみた。
やっぱりここに違いない。
でも、そこは薄汚れた曇天の空のような鼠色のシャッターがしっかり下りていた。
そのあたりは五、六軒まとめて閉まっていたから、数え間違えたとしても閉まっていることは間違いなかった。
昨日は確かに、ここに「平田商店」があったはずなのだが……。

ん?そもそも本当にそんな店が存在したのだろうか?

私の腕から足にかけてドミノ倒しのように鳥肌が立っていくのが分かった。
手のひらにも汗が滲み出してきた。
でも、間違いなく私はここで「焼きそば ダーウィン」を見つけて、買って持ち帰って、そして食したはずだった。
私はしばらく、そこに立ちすくんでしまった。


すべて私の妄想だったのか?


ふと、斜め向かいに「純喫茶 夢」という看板が目にはいった。
まだ店は営業しているようだった。
そこで訊けば何か分かるかもしれない。
その店に入ってみることにした。

店は四人がけのテーブルが4つとカウンターだけの、小ぢんまりとした店だった。
店に入ると、やや小太りの女の店主がちらっとこちらに視線を投げて事務的に「いらっしゃい」と告げた。年の頃でいうと五十代くらいに見えるが、きっとこの手の女性は近くで見るとプラス10~15は上積みされることが必至だろう。
他のお客はカウンターの一番奥に、五十代後半のやや目線の定まらないオッサンがひとりだけだった。
私は最も出口に近い、窓側の席に腰を下ろした。
女店主が水とおしぼりを運んできた。
メニューを見るまでもなくコーヒーを注文した。
それから窓越しに「平田商店」のあったあたりを見つめていた。

コーヒーが運ばれてきた。
私は恐る恐る訊いてみることにした。

「そこのシャッターの店、平田商店……ですよね?」
「そこ?ああ、それなら平田の爺さんの店だよ」と、これまた女店主はめんどくさそうに答えた。
確かに平田商店は存在していたようだった。
私は胸を撫で下ろした。私の幻覚でもなさそうだ。

「今日はもう閉店ですか?」
「あの店は気まぐれだからねえ。今日は朝から閉まったままだった気がするねえ」
「確か、昨日はやってましたよね?」
「昨日?昨日はうちが休みだったから分からないけどさあ。でも、やってたかもしんないねえ」

ここぞとばかりに、もうすこし訊いてみた。

「あの店って何屋なんです?」
「この辺りじゃ『萬屋(よろずや)』ってよんでるわ。食料品から乾物、金物、日用品。おまけに風邪薬も置いているしね」
「風邪薬って、薬局でもなさそうなのに」
「ホントはいけないんだろうけどさあ。この並びに薬局がないから、たまに重宝するのよ」
「……」
「ま、あそこのカチトラの爺さん、いい人だからさあ」
「カチトラ?」
「平田の爺さんの名前がさあ、“勝虎”って書くらしいのよ。それを“かつお”と読ませるらしいんだけれど、自分でいつも『わしは勝ちトラやで』っていいふれまわっていたから“カチトラ爺さん”って皆、呼んでいるのよ」
「もちろん阪神ファン?」
「そりゃあそうよ。この商店街に阪神ファン以外はいないよ。岡田さんの地元だもん。あの爺さんの自慢は、ここの地元少年野球チームの副監督やってた頃、岡田少年を指導したことだからね。『岡田のバッティングはワシの指導の賜物』だって口癖だもん」
「でもさあ、そのチームの監督がすぐそこの岡田洋品店の大将なんだけどさあ、どうもカチトラの爺さんとソリが合わなくってさあ。結局、爺さん、副監督から二軍のチームに追いやられたらしいの。それが面白くなかったんだろうね。それからしばらくして少年野球のほう、プッツリと辞めちゃったみたい。子供たちには人気があったのにさあ。それからは病気がちでねえ。5年前くらいからは寝たっきりだったわ……」
「もう二年になるかねえ。岡田阪神が初優勝を決めたのは。その前日に爺さん、ポックリと逝っちゃってさあ。さぞや優勝を楽しみにしてただろうにねえ。それからは一人娘のタミコさんがひとりで細々とあの店、切り盛りしてるのよ。店開けるの、結構気まぐれだけどさあ」
「あ、そういやタミコさん、三日前から今日まで、町内会からの四国旅行に行くって言ってたから、昨日は店、やってなかったはずだわ……」




~完~

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コメント
 
 
 
そっちの世界 (tacoco)
2007-06-14 15:53:08
こっちの世界に帰りたくない気持ちわかります・・。
家にはちゃんと帰ってますか?
 
 
 
→tacocoさん (いわほー)
2007-06-14 21:10:18
>家にはちゃんと帰ってますか?
早くおうちにかえりたいのに、かえりみちがわかりません(汗)

 
 
 
早く帰ってきてください。 (yu)
2007-06-15 21:21:16
ああ、やっぱりこういう結末になってしまったのか・・・。(涙)

でも、もちろんいわほーさんが平田勝虎さんのご意志を受け継いで「焼きそばダーウィン」の商品化に向けて行動を起こしはるんですよね。
トロピカルか・・・。売れるかな?
でもこれだけは譲れないんですよね?(笑)

>ちょうど日付が変わる境目に時間の隙間があるのをご存知です?

知ってます。ここにうまく入り込めるといっぱい色んな事やってしかも6時間くらい寝れるんです。
 
 
 
⇒yuさん (いわほー)
2007-06-16 19:21:00
今日のマリーンズ戦、アッチの世界からコッチの世界に覚醒させるにうってつけの試合でした。
いい試合を生観戦しましたね。うらやましい。^^

一日24時間というのは人によって絶対、多い少ないがあると思います。それでいくと、yuさんの一日は30時間はかたいでしょう。
 
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