哲学の科学

science of philosophy

生物学の中心教義について(3)

2017-08-05 | yy58生物学の中心教義について


だいたい人間の感性は複雑なものが嫌いで、単純なものが好きです。単純さに美しさを感じます。物理学など、ニュートンやアインシュタインは単純な数学を使って森羅万象を描き出すところに快感を求めて探求したのではないか、と思えます。
ところが生物学はそう単純にいきません。ダーウィンの作り出した進化論は比較的に簡単な原理ですが、それを適用することで作り出されることになるはずの生物体はかくも千差万別多種多様、複雑極まりなし、という状況です。
この複雑さは、もう少しなんとかならないのか?クリックの後継者である現代の生物学者たちは内心そう思っているでしょう。
今世紀に入ってからも、一生懸命に研究を進めればよい見通しが得られるのではないだろうか、と頑張ってきました。しかし研究が進むほど、タンパク質の種類は増え、タンパク質相互の反応関係は複雑なネットワークであることが分かり、最も簡単な単細胞生物でさえも、構造や機能はやたらに複雑なことが分かってきました。
三十八億年前の地球に出現した最初の生物は、ずっと単純だったはずであったろう、とはいうものの、その具体的姿は描けていません。

問題は、自己複製という生物の基本機能を備えるためには単純な構造では無理である、ということらしいのです。生物構造体が自己複製するためには、DNAを複製し、(ミトコンドリアなど)エネルギー発生装置や(細胞骨格など)支持構造や膜や壁や液状物質など細胞の機構内容をすべて二倍に増やして、それらすべての機構を左右に分離して再組立てし整頓し、二倍に増大した細胞の中間部分をくびれさせて二個の細胞に切り分けなければなりません。
こういうことを自動的に進展できる機械は人工では作れていません。生物の活動は核酸、タンパク質、糖鎖など有機分子の重合体を切断、接着、ねじりなど分子間エネルギーにより変形していくことで実行されるものですが、これらの変形を媒介するタンパク質の種類は一個の細胞内で数千から数万種あります。タンパク質一個一個は工作機械でたとえれば、一台のNCマシーンくらいの複雑さですが、こういうものを数千種そろえるとなると巨大な工場の数百倍の複雑さでしょう。現代の人工工作物にこういう規模のものはありません。
クリックが活躍した前世紀のころは、生命の神秘、などといって科学者も感嘆しているだけでしたが、今世紀に入って生命科学の進展により生物の細部構造が次々に解明されてくると、現代の科学者はその複雑さに圧倒されそうになっているようです。

コンピュータプログラムの基礎理論を確立した数学者ジョン・フォンノイマン(一九〇三年―一九五七年)は自己複製機械の原理を追求し、方眼紙形式の有限状態システム(セルラーオートマトン)の上で自己複製する数学模型を描き出しました(一九五七年死後出版 ジョン・フォンノイマン『自己増殖オートマトンの理論』)。そこに示されたシステム原理は、自己増殖するシステムは本体の内部に設計情報を記載した記号列を保有し、それにしたがって本体と同一の組み立てを行うと同時に記号列を複製する、というものでした。これは後年クリックが提唱した生物学の中心教義と同一の内容を抽象的に述べたものであるといえます。
この原理により構成されるシステムは、数学モデルとして抽象的に記述する場合にもかなり複雑性が高いものになってしまいます。まずシステムを記号によって表現するDNA的なメモリー媒体、つぎにDNA的記号メモリーを読み出して部品から自己自身を構築するシステム、そしてそのシステムはまた記号メモリーの複製もする必要があります。
メモリーの読出し・部品組み立て機構とメモリー複製機構だけでもかなり複雑なものとなるのに、さらにそれらの機構を部品から自動的に組み上げる機構が必要です。そのうえ、それらすべての機構を組み上げる機構が必要になる。設計を続けると際限なくシステムが大きくなりそうです。
かなり上手に設計して、有限の大きさのシステムで自己複製ができる設計が完成したとしても、最初のシステムは人間が作って部品を十分に供給してやらないと自己複製は始まりません。物理的システムとしてこのような人工機械が作られたことはありません。規模が大きくなりすぎるからです。
さらに自然環境の中で自己複製の機能を持つ自動機械は、一個の都市のように複雑で巨大な物理的システムになってしまうでしょう。何を目的として作るにしろ、現実の世界でそれほどの規模の人工構造物が作られることはなさそうです。












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