典の極私的ことの葉

詩、物語、短歌、随想、、、坐忘、、Tao、お気楽極楽。
2017.07.13.開設。

母逝きて

2017-07-15 23:30:00 | monologue



 今朝の明け方の空。空の淡い青も、雲の白も、清らに透けていました。


 お母さん、こったに透けだ空さ返ったのがい?


 母が逝って八年経ちました。私は八年年齢を重ねましたが、母はもう年を取りません。


 「お母さん、お母さんさ逢いたい人が来てけだよ」
 父の言葉に瞼を開けた母の瞳が揺れました。
 「わがるかい?」
 数秒の間の後、柔らかい眼差しで私をみつめた母は、
 「お兄ちゃん? どうしてだの? 心配してたんだよ」
 「……お、かあさん」
 「母さん、すっかり、お婆ちゃんになってまったべさ」
 「……おかあ、さん」
 「痩せだんでねえの? ちゃんとご飯食べでるの?」
 数年振りに逢った母から語りかけられ、私は何をどう話していいのか解らず、絶句するばかりでした。
 不治の病を宣告された母は、不孝な私に優しかった。そして、病んでなお、綺麗、でした。


 それから母は四年生きて、八年前の今日の早朝、息を引き取りました。享年七十歳(満六十九歳)。私は死に目に会えませんでしたが、弟が間に合ってくれました。


 快晴、朝から三十度超えの東京から帰った私を、故郷は肌寒い霧雨で迎えました。対面した母は、――最後の最後まで闘い抜いた母は、苦しげではなく、安らぎに透けていました。

 その後も母は、火葬の直前まで時々刻々と神々しくなっていき、私らを驚かせました。火葬場での最後のお別れの時、弟と繰り返し、母の額や頬に触れました。

 冷えた母は、熱い骨となり、白木の箱に収まって、火葬場からお寺まで箱を抱えていた私は、母の最後の熱を、――母の体温を感じました。

 お通夜は涙雨、翌本葬は快晴、でした。母らしく。私たちは最後まで泣き乱すことなく、母を送りました。

 その反動か、毎年命日には――それだけでなく思い出に耽った時も――恋しくて泣いています。

 笑われて本望。「産んでくれてありがとう、お母さん」。
 小さい頃は「ママ!」と呼んでいました。「産んでくれてありがとう、ママ」。

 ありがとう、有り難う。
 有り難し、居て欲しい時、親は無し。


 空に、母を観た、瞬間。
 視界が歪んで、揺れました。



 透けた青清らな白に重ね居り
   あなたの在らん浄土の空を

                 典



written:2017.07.15.


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8 コメント

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亡くなって日々遠くなる (夢見)
2017-07-16 10:11:03
人も在れば
生きて此の世に在った時よりも 存在感を増していくのが「親」なのかもしれません

懐かしく 有難く

不思議なものですね
Unknown (月木窓)
2017-07-16 18:52:34
つかささんの、ストレートで普段使いの言葉の作品が好きです。
Re:亡くなって日々遠くなる (つかさ)
2017-07-16 20:18:10
夢見さま、ありがとうございます。
そうですね。
十年ほど前ですか、取引先の人に、「何だかんだ言っても親は心の支えだよ」と言われたのを思い出しました。
Re:Unknown (つかさ)
2017-07-16 20:20:47
月木窓さま、こんばんは。
ありがとうございます。
照れます。
(^^ゞ
お母様 (なぎさ)
2017-07-17 16:28:48
お若いですね
まだまだやりたい事も、気にかかることもあっただろうね・・・
毎年、思い出して差し上げると喜ばれますよ

ご冥福をお祈りいたします
Re:ありがとうございます。 (つかさ)
2017-07-17 18:10:18
なぎささま
こんにちは(^o^)。
ちょっと早かったと思います。和尚様には「七十歳まで生きたのだから短いというわけではないでしょう」と慰められましたが。
これもまた縁なのでしょう。

ありがとうございました。
こんばんは (かすみ草)
2017-07-18 20:36:00
お母さま
空で微笑んでいるといいですね

きっといつも見守って
くださっているのでしょうね

Re:こんばんは (つかさ)
2017-07-18 22:41:44
かすみ草さま
こんばんは(^o^)。
ありがとうございます。そうですね、私たち兄弟を見守ってくれていると思います、父共々。

母命日は十五日、私の誕生日が十八日で本葬を行った日でした。子供冥利に尽きる巡りだったと思います。
ありがとうございました。

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