２００８・０７・３１

今日の「お気に入り」。

　　死のきはの一瞬父は目を開き
　　　　　　　　　血筋浮く腕(て)の時計を見たり

　　最後まで筆とりゐしか父の床
　　　　　　　　　ふとんに紛るる鉛筆拾ふ

　　　　　　　　　　　　　　　　（庄野史子）

安乗の稚児 ２００８・０７・２９

今日の「お気に入り」は、伊良子清白(1877-1946)の詩「安乗(あのり)の稚児」。

　　志摩の果(はて)安乗の小村(こむら)
　　早手風岩をどよもし
　　柳道木々を根こじて
　　虚空(みそら)飛ぶ断(ちぎ)れの細葉

　　水底(みなぞこ)の泥を逆上げ
　　かきにごす海の病(いたづき)
　　そゝり立つ波の大鋸(おほのこ)
　　過(よ)げとこそ船をまつらめ

　　とある家(や)に飯(いひ)蒸(むせ)かへり
　　男(を)もあらず女（め）も出(い)で行(ゆ)きて
　　稚児ひとり小籠に坐り
　　ほゝゑみて海に対(むか)へり

　　荒壁の小家一村
　　反響(こだま)する心と心
　　稚児ひとり恐怖(おそれ)をしらず
　　ほゝゑみて海に対へり

　　いみじくも貴き景色
　　今もなほ胸にぞ跳る
　　少(わか)くして人と行きたる
　　志摩のはて安乗の小村

２００８・０７・２６

今日の「お気に入り」は、阪田寛夫さん(1925-2005)の詩「マサシゲ」。

　　　千早の城でな
　　　正成さんは
　　　真瓜(まくわ)うり　かぶりもて
　　　ぼちぼち行こか
　　　と言やはりましてん

　　　奥さん薙刀(なぎなた)せたろうて
　　　紀州ネルの腰巻しめて
　　　連れもて行こら
　　　と言やはりましてん

　　　葛城山に雲が出て
　　　寄せ手の兵隊傘さした
　　　正成さんは
　　　びっちゃりこ

２００８・０７・２１

今日の「お気に入り」は、阪田寛夫さん(1925-2005)の詩「熊にまたがり」。

　　　熊にまたがり屁をこけば
　　　りんどうの花散りゆけり
　　　熊にまたがり空見れば
　　　おれはアホかと思わるる

２００８・０７・１９

今日の「お気に入り」。

　　ひと老いて何のいのりぞ鰻すら
　　　　　　　　　あぶら濃過ぐと言はむとぞする　（斎藤茂吉）

２００８・０７・１７

今日の「お気に入り」。


　　山鉾やじわじわと暑の押し寄する　（鍵和田秞子）

２００８・０７・０９

今日の「お気に入り」。

　　保水力衰へきたる森のやう
　　　　　　顔、腕、足に水をかけやる　（福原美江）

２００８・０７・０７

今日の「お気に入り」。


　　夕暮れに深み増したる紫木蓮　　（鶴見松絵）

２００８・０７・０１

今日の「お気に入り」。

　　クロールのしぶきを立てぬ老婆かな　（小島麦人）