知名孝ブログ

日々の経験・思ったこと・考えたこと。精神保健福祉、発達障害、(児童思春期の)メンタルヘルスや自転車、ギターのこと。

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精神医療・保健福祉で脱施設化がすすまない3つの理由

2014-05-28 10:16:53 | 精神医療、脱施設化、脱精神科病院
その1 入院医療の問題ではなく外来医療の問題
 
 脱施設化・脱精神病院化がすすまない理由のひとつは、精神科病院の外来医療が、構造的に入院中心主義をささえているところがある。
 
入院していた患者さんが退院すると、ほとんど同じ病院で外来通院する。海外の制度からするとあまり普通なことではない。海外視察の対象になる国々では、入院治療するところと、外来治療する施設が、建物も法人(経営・運営主体)もまったくちがっている人が多いはず。もともと外来医療っていうのは、「日常(生活)性」や「(地域)生活性」に寄り添うかたちで存在する医療サービス。「非日常的」治療空間である(べき)入院医療とは、そもそもの存在理由がちがう(※もちろん脱施設化を前提としないならそういう区別も必要ないと思いますが…)。しかも日本の精神科病院のなかにある外来医療には、デイケアもナイトケアもある、訪問看護もある、時間外診療もある、そしておまけに時間内外の緊急入院もある。精神科病院がワンストップサービスセンターになっていて、「なんでもあるから病院に頼ってください」っていうシステム設計。だから、精神医療・保健福祉分野にとって脱施設化(=脱精神病院化)というのは、入院の数や期間の問題ではなくて、精神科病院に依存しなければならないシステム設計の問題が問われるべきだし、そこからどう脱却するかということなのではないのだろうか。 それが入院の期間の問題にすりかわってしまうと、ACTのような外国の表面的な取り組みだけが輸入されてしまうことになる。

 精神科病院ではない外来医療施設っていうと、クリニックのような医療施設を考えがちだろうが、必ずしもそうでなくてもいいはず。沖縄でいうと「なんくる」や「ウェーブ」や「あいあい」、あるいは「アソシア社会大学」や「Bowl」… のような、医療法人付属ではない地域の「福祉事業所」に、週半日×1,2回医者が来て診察をする(というのがアメリカ型の地域支援のための「外来医療」で、他の国でも似たようなことをしているはず)。非常勤・常勤、あるいはオンコール勤務の看護師がある程度の処置をする。地域活動支援センター(Ⅲ型含む)、地域生活支援センター、通所の生活訓練施設やB型等々...、地域支援のなかに非常勤医療がサービスメニューとして登場することで、「精神科病院に行かなくても医療サービスをうけることのできる環境づくり」になる(総合支援法に医療加算が必要になりますが)。そして、そういう制度の間を埋めるかたちで存在するのが、ケアマネや特定看護師、あるいは地域を実践のステージとして選んだOTや心理士となる。特定看護師は、決められた期間精神科勤務の後精神科看護学大学院を修了して取得する看護資格で、医師の指示のもと処方ができるという欧米の制度で、国や州によってはそれ以上の医療行為が可能なところもある。外国では地域医療の大きな柱になっている。特定看護師については、ここ数年日本でも議題にあがっては消えしているようで、簡単には制度化できそうもありませんが..。もしも脱施設化(脱精神科病院)をするのであれば、医療サービスを精神科病院の独占から解放し(=地域移行し)、生活現場に近いところで提供できるような形が必要になるはず。歴史的にACT(あるいはPACT)というプログラムは、そういう医療や地域支援の基本的インフラが足腰のように整備されてはじめて機能しはじめた制度であるはず。「精神科病院依存体質」からの脱却との両輪で機能していることを置き去りにして、ACTや退院促進プログラムだけで変化をもたらすのは難しいというのは、国内でACTや退院促進の実践されてきた方々はすでにわかってきていると思うのです。


その2 長期入院の中での支援関係という愛着形成の問題

 それじゃ、そういう精神科病院依存型の体質のなかでの実践っていうのは、すべて問題ありの実践なのっていうと、そう短絡的なものでもない。脱施設化に向かわない実践があたかも悪者扱いされるようなかんじがあるのだけど、長期の患者さんがたくさんいるタイプの病院のスタッフ達は、患者さんとほどよいいい関係を築きながら、いい実践を日々展開しているところも少なくないと思う。なにより患者さん達も病院のスタッフに信頼感というか愛着を抱いている人が多いんじゃないかと思う。

 ただ、脱施設化をするのであれば、医療機関あるいは支援機関との「なじみ感」あるいは愛着形成自体が脱施設化のひとつのテーマであるように思う。

 先日ある会議で、地域移行・退院促進をこれまで続けてきたベテランのワーカーさんが、「入院中の患者さんに、退院に向けて取り組みをはじめても、長期入院者になるほど本人との人間関係つくるのも時間かかるし、なかなか難しいところがある…」とぼやいていた。上に記したような精神科病院依存構造のもとでは、多くの入院患者にとって(家族にとっても)、入院で「おせわになっている病院」のほうが、地域の相談支援事業所よりも「なじみ感」や愛着を抱いていることが多いはず。病院のデイケア通所をしていたり、病院法人の福祉施設を利用している人たちはなおさらだと思う。退院促進を行う相談事業所のワーカーからすると、「他の病院の患者さん」を「他の病院」に行って退院にむけての相談をするわけで、ある種の「アウェー感」に包まれながら相談業務をすることになるようだ。病院スタッフ側も、患者さんに対する責任感が、「うちの患者さん」というある種の所有感じみた言説として表れることも少なくない。調査したわけではないのだけど、脱施設化(地域移行)という実践のあり方について、病院スタッフは地域の事業所や相談支援スタッフに比べて消極的な印象がある。病院勤務の支援スタッフにとっても患者さん達への愛着があるわけで、病院スタッフからすると地域で本当にやっていけるのかという不安があるのだろう。そのことに対して良いか悪いかはいろいろと意見・議論があると思うが、いずれにせよ病院スタッフと患者・利用者間の「愛着」という言葉がしっくりくるような感じに思える。いったん形成された愛着関係は、それを変えて行くには不安を伴うことが多いわけで、特にいい関係であればあるほど難しい側面もあるかもしれない。

 15,6年ほど前にロサンゼルスにあるヴィレッジのリチャード・ヴァンホーン氏が沖縄で講演したときに、「うちのメンバーさんが入院したときには、うちのドクターとスタッフがその病院に行って診察して退院するまでケアをする」と述べている。「うちのメンバー」と言われる人(メンバーさん)たち自身の「なじみ感」(日常感)や愛着形成が、入院も外来もなんでもある精神科病院にあるのか、生活密着型の外来医療をかねそなえた地域生活支援施設にあるのか、病と障害を抱えて生きるなかでどんな支援環境に愛着形成をするのかっていうことは脱施設化を考えるうえで無視できないような気がする。


その3 病院スタッフの脱施設化の問題

 脱施設化・脱精神科病院化にむけてのもうひとつの課題は、「病院で勤務する職員の脱施設化・地域移行」かもしれない。昨年11月沖縄で行われた精神障害者リハビリテーション学会分科会で、精神科病院から地域への転職にともなう実践の変化と戸惑い、そして再適応のプロセスについて発表された方がいらした。彼女の発表では、精神科病院での実践のやり方と地域のやり方に思ったよりも大きなちがいがあって、そこにとても戸惑ったという発表。どうしても病院で勤務していると、「(実践を裏打ちするメンタリティが)施設化されてしまう。だから病院スタッフの脱施設化・地域移行が必要」というコメントを申し上げたら、座長の寺谷隆子先生が大きくうなずいて賛同いただいた(と勝手に解釈した)。「精神科病院と地域での実践は、実践文化において大きなちがいがある」というのは、病院勤務歴をもつ地域の事業所勤務の人たちが口々に言うこと。

 人は自らの経験の範囲内でしか、ものごとの認識や評価をすることができない。そう考えると、病院スタッフは病院で培ってきた実践の範囲でノーマライゼーションや脱施設化について認識せざるをえない。現在病院で勤務する人たちがどうやって地域で実践・経験する(=働く=転職する)ことができるようになるかということも、脱施設化・脱精神科病院化の重要な課題かもしれない。1950年代以降旧厚生省主導で行われた精神病院倍増政策の遺産は、現在の医療経済学的問題(大きな精神科病院の経営の問題)となり、実践する者たちの内面の脱施設化をより困難にしているところと関係しているのかもしれない。



 「脱施設化」「脱精神科病院化」を進めるべきかどうかについて、否定する人はいなくとも、ドラスティックかつ斬新にという意見と保守的にソフトランディングにすすめべきという考え方の間にいろんな意見があるのだろうと思う。慢性期病棟の施設種別の変更の問題もある。いずれにせよ、本当にすすめるのならば、入退院の問題だけを議論するステージから次のステージへの移行が必要になってきているのかもしれない。
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