花吹雪が舞っているわけではない。
はっきりと、目に映る白い塊は
激しく降り注いでも
身体をそれほど濡らすわけでもない。
賑やかに大地を叩き、
わたしの耳元で囁く塊も、
そのまま足もとに乾いた音を立てて落ちていく。
春を迎えようとサンシュユの蕾も膨らんだころ、
ひっくり返すような冷え込んだ空気が、
雪“霰”となって空を、
そしてあたりを包んでいった。
冬じまいと思い込んでいた人々も
山々も、野も、
乾いた音に起こされるように、
一面を埋めた粒に目覚める。
長年の経験と、
蓄積された記憶。
それぞれが人々の動きを予測する。
しかし、それだけでは解決できない出来事が
今は日増しに新たな記憶としてわたしを揺り動かす。
人々は穢れなき定説を描き、
安心と安全をこの世の常道と言うが、
わたしにとって、
それは“迷い”への導き。
わたしはこの世の常道から逸れた道を歩むしかないのか。
わたしの心の冷たさを癒すように
乾いた雪“霰”が身体をさする。
一面を埋めた心の汗は
わたしを白く打ち消していく。
消え果てる明日を前に…。