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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

霧深き土地

2009-06-14 20:27:51 | 自然から学ぶ
 『伊那』の最新号である973号(伊那史学会)において2008年に行われた伊那谷研究団体協議会のシンポジウムの特集号を組んでいる。昨日の「地域学へのまなざし」もその一つである。近松志津夫氏は「飯田市近辺における霧の発生について」発表している。県内でも有数の霧の発生地である飯田下伊那地方におけるその発生のメカニズムのようなものを捉えようとしたのである。さまざまな試みしてみたものの、はっきりとして発生の条件は明らかにはならなかったようであるが、ある程度の予測はできるという。その条件とは、

①水温と気温の温度差が3~10゜で霧が出る。
②気温が水温より下がり、気温が0~10゜ぐらいの間に霧が出る。夏は気温の方が水温より高いために出ず、冬になって気温が下がり霜が出ると霧も出ない。と言う。

 そして「霧の発生を前日に予想するには、空気にある程度の湿度があること、そして翌朝風がなく放射冷却で最低気温が大きく下がる日を選ぶと、霧が出ると考えられる」ようだ。さらに「冷え込みが大きいほど霧の量は多くなり、深い霧が発生する」と言うことだ。飯田松川からその天竜川合流点、そして天竜川沿いというのは霧がよく発生するという印象を持っている。川が影響して発生する川霧の印象を強く持っているのだが、実は気温の低下によって発生する放射霧がほとんどだという。

 かつて中央自動車道を走ると松川IC―駒ヶ根IC間は霧がよく発生するということで知られていた。現在進行形なのかどうかは最近うわさをあまり聞かないので知らないが、冷え込みが大きいほど霧の発生量が多くなるというから、このあたりが伊那谷の中でももっとも放射冷却が強い区間かもしれない。その理由はこのあたりは比較的山付けで標高も高いうえに、周辺の人口密度も低く、これより北の辰野あたりまで見渡しても霧の発生条件が整っているのかもしれない。

 ところで『上伊那郡誌民俗篇』から霧に関する俗信を拾ってみる。
○羽場の方に一面に霧がかかると雨が降る。(辰野西)
○瀬戸へ朝霧が出ると雨が降る。(伊那里)
○朝霧が塩渡へ上がると雨が降る。(伊那里)
○仙丈に霧がかかって見えない時は夕立がある。(伊那里)
○戸倉山に霧がかかると雨が降る。(伊那里)
○霧が分杭峠に出れば雨が降る。(伊那里)
○霧がおりると天気が良くなる。(辰野西、東伊那)
○朝霧は晴れる。
○近くの山に霧がおりると雨が降る。
○霧があがると晴れる。(伊那里、辰野西)
○霧足がそろえば天気がよくなる。
○霧が上に向かうときは天気が変わる。
○川霧が立つと雨が降る。
○山の中腹に霧がかかれば雨が降る。
○朝霧がおりないと夕方は雨になる。
○朝霧が横になびいて動かない時は天気が悪い。
○川霧七十五日(八月川霧が出てから七十五日で霜がくる)。
○霧が低いと天気。
○山の間に霧がかかると雨。
○秋。霧が立つと天気になる。
○泉原に霧がかかると雨が降る。(美和)

以上ですべてであるが、近松氏の霧の出る条件を念頭において自分の経験を当てはめてみると、霧が出れば天気は良くなるという印象をもっている。とすればここに上げられた俗信は霧と雲が混同されているのではないだろうか。いずれにしても霧に関する俗信とは言わずに経験値のようなものを集めてみると、またそのメカニズムが見えてくるのではないだろうか。

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