Cosmos Factory

地方は終焉を迎え、無秩序な空間は途方もなく宇宙まで続く。

アララギに鰯

2017-02-21 23:27:15 | 民俗学

柊に鰯(阿南町新野)

 

 

アララギに鰯(阿南町新野)

 

 今日も売木村を訪れたついでに、先ごろ見つけた柊に鰯を刺したものを掲げていた家へ再び寄ってみることに。もちろんそれをいつまで掲げておくかについて聞いてみたというわけである。すると年末まで掲げておいて、年末に大掃除をした際に家の中にある御札などを外したついでに柊鰯も外すという。そして年の明けた正月の初詣で豊川稲荷へ持って行き処分してもらっているという。おばさんの家では3年前までガソリンスタンドを営業されていた。売木村唯一のガソリンスタンドだったため、当時閉店するに当たって話題にもなっている。おばさんによると60年間営業されていたという。それまではガスを扱っていたというが、さらにそれ以前は薪を扱っていて、豊川まで運んで売っていたという。豊川まで薪を運ぶのにガソリンを使うこともあって、ガソリンも扱うようになり、ガソリンスタンドに転向していったようだ。ガソリンスタンド発生のかつてのパターンをなぞっている例である。商売をしていたということもあって、豊川稲荷へ初詣に行くのは毎年の恒例だったという。もちろん今も欠かさず豊川までお参りに行かれるという。柊はそのまま年末まで残っているが、鰯は猫に取られてしまって無くなってしまうことがよくあったというが、最近は年末まで干からびて残っているという。

 そんな話をしたあと、帰り道新野の中心部を少しのぞいてみた。すると、伊豆神社下の栃洞公民館に続く旧道沿いに柊に鰯の頭を刺したものが幾例も見受けられた。このあたりも柊に鰯を刺して魔除けにする風習が生きているよう。夏に盆踊りの輪ができる新野の中心街の南端あたりの家にもそれらしいものが掲げられていて、さすがに新野という印象を受けたわけだが、その中には写真のように玄関脇にガムテープで貼り出している家もあった。確かに事例は幾例かみられたが、柊の枝そのものは小さく、魔除け全体も小ぶりで目につきにくい。樽川沿いの家をうかがってみると、それまで見てきたものとは違うものが掲げられている。柊ではない。聞くとアララギというが、一般的にはイチイと呼ばれている枝である。おじさんによると「焼くとパチパチと音がするから」使われているという。昔から柊ではなくアララギを使っているといい、屋敷内の生垣に植えられているからそれを使っているらしい。さらにおじさんの家をうかがうと、窓という窓にそれを掲げていて、みごとなほどに防御体制を取られている。これなら鬼も寄ってこないだろうというほどに。アララギを使っている家がすぐ近くでもう1軒見られたが、柊にくらべると珍しい。『阿南町誌』下巻(阿南町 昭和62年)によると、「豆をいるときには青木(ガヤの枝、ヒノキの枝、ヒイラギ、アララギ)をくべてバチバチ音をたてる」とある。そして「この日節分の鬼を作る。十二、三センチメートルの竹串や青木にニボシなど魚の頭を刺したものを、オニとかオニの首といって出入りする戸間口に全部刺して回る。地区によっては小さく切った半紙に片仮名か平仮名で「カニ」と書いたものや、沢ガニを竹串に刺したり絵に描いたりしたものを、戸間口にはったり刺したりする。中には倉とか戸板とか、すべての戸の開くところへはる地区もある。」という。アララギに鰯を刺したものを掲げられていたおじさんの家は、まさにこの「すべての戸の開くところ」へ出されていた。おじさんによると、これは来年までそのままだという。来年の節分の際に外して取り替えると言われ、外したものは家で焼いて処分するという。かつては玄関先でパチパチと音をたてて燃やすことをしたと聞いたことはあるというが、考えてみれば1年中掲げておいたものを外して焼けば、まさに「パチパチ」と音を立てていたことになると思うのだが、おじさんにはそういう意識で燃やしたという認識はないようだ。

 この日、遠山出身の方と飲んだ際に遠山での節分の様子をうかがった。豆まきはもちろんだが、柊に鰯の頭を刺して魔除けに出すことは今もしているのではないかという。柊以外のものを使うところがあるのだろうかとウェブ上で検索してみると、大鹿村の「右馬允」という旅館のページに「イチイ×イワシ×ししとうの節分」というものがあった。こちらではアララギとは言わずに一般的な「イチイ」と言っているが、いずれにしても柊ではない。また、長野県環境保全研究所飯綱庁舎のフェイスブックには「信州の中南部では、かつて焼いたイワシの頭をヒイラギ等の枝にさして戸口にさし、悪霊を追い払おうとする"ヤイカガシ"の風習がありました。ヒイラギではなく茅(諏訪)、榧やイチイやイヌツゲ(木曽)を用いる地域、ヒイラギと榧等の両方(下伊那)、ハギ(東筑摩)を用いる地域もありました。ヒイラギや榧等の葉は固く先が尖っていて、これで鬼の目を突く、焼いたイワシの頭は悪臭で鬼を追い払う等、と考えられていましたる。」という解説文が。やはりイチイを利用する地域もあるようだ。

『長野県』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
« 〝長野県民俗地図〟の悩み | トップ | 伊那谷の土蔵・前編 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL