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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「農のあした」から①

2009-06-24 12:27:25 | 農村環境
 「長野日報」において「農のあした」という連載をしている。南箕輪村北殿の有賀功さんというもと農林中央金庫森林部長だった方が「日本から農家をなくすな」と題して連載のトップを飾った。有賀さんが見てきたものはほぼわたしの見てきたものと等しいと共感する部分が多い。つきなみなことではあるが、農家の担ってきたものとは何かを有賀さんの言葉を借りて、まず振り返ってみよう。

 まず農家が担ってきたもの四つを取り上げている。

 一つは「農業生産の維持・拡大」というものである。「少し前まで日本の農家は、どんな条件が悪い所でも、およそ耕せる限りの土地は耕し、栽培が可能な限りの季節は何度でも作付けし、ありったけの労働力を使って生産を挙げて来ました」と言う。今の水田農業はまさに現代的な政策の産物であって、広大な土地は1年にたった一度だけ利用するために存在している。コメ農家が規模拡大に次ぐ拡大で工場空間のごとく均一化されていったことは言うまでもなく、その最たるものは乾田化というものだっただろう。乾田にすることにより機械化が可能になるし、作業コストも下げられる。そして減反政策の中では転作させるための条件整備という名目を一手に負った。かつて開田を目指していた土地改良は、一瞬にして転作のためのものに変わった。そのころからだろう、水田の利用方法が画一化、均一化されていったのは。よく言われる棚田風景と言われるが、確かに水稲が植わっている姿が景観として評価されるのだろうが、はたしてそれは長い時間そうした姿を見せ続けてきたかというとそうではないだろう。平地農村の水が豊富なところでは水田耕作が容易だっただろうが、山間地域にあっては水か無くて今のような景観(先般「景観」について触れたので、あえてここでは「景観」を意識的に使わせてもらう)さえ古き時代には望めなかったこともあるだろう。まずは生産が優先された時代である。工夫できる限り工夫されて、狭い土地でも多くを生産してきた。無用の長物のごとき耕作地と化している現代とは意識も何もかも異なっていたといえるだろうが、それは戦争と同じくそれほど昔のことではないのである。

 次に「包容力」という表現で「社会の安全装置の働きをしてきた」と農村のことを取り上げている。「農業に不作や思わざる損害は避けられず、農家はそれに耐える準備と心の強さをがないと経営を続けられません」といい、そうした心の強さは先の大戦で戦災者や引揚者の空腹を包容力で補ってきたというのである。また「老人・子供の一人前でない労働力や、ちょっとあいた時間という断片的な労働力も役立てることができます」とその柔軟性のある社会に「包容力」と名づけているのである。そしてこうした問題を抱えたとき、団体営農、いわゆる営農組合や農業生産法人のような組織的営農やもっといえば今後期待されている企業参入組にしてもそうした包容力はもっとも苦手な部分だろうというのである。

 三つ目に挙げているのは「農業の多面的機能」という最近よく耳にするものである。食料等の供給という部分だけではなく、国家社会に対しての機能を果たしているというもので、その例として国土保全とか洪水調整、水源涵養といったものはごく一般的に知られたものである。そして「ここで大切なことは、これらの機能は、農家が日々生業を続ける中で自然に果されて来た、ということです」と言う。まさにその通りで、それは意識的にされてきたことではなく、ひたすら生業を続けることがそのままそうした連鎖を招いていたわけである。現代におけるさまざまな意図的活動は、本来そのようなことはしなくても継続されるはずだったのだ。

 最後に「国民の心性、教育」というものである。「自然・生き物を開いてとする農業によって、日本人は独特の心性を形造ってきました。これもいちいち話すと長くなりますが、物事をよく観察し、自分の目と頭で判断する、相手を思いやる、ひとと仲良くする、勤勉、自立、物事の全体をみる、また長期的にみる、等々です。高度成長期に日本的経営の優れていることが協調されましたが、その基礎はやはり日本農家の長年の蓄積にあったと考えられます」と言う。いまさらながら何を、という意見もあるだろうが、日本人と区切らずともわたしたちは生活の中で多くを学び、それは一生涯の糧にして生業にも社会の一員としても役立ててきたことは確かなはず。ところが今は生活の中で学ぶものがなりわいにしても社会の一員としても役に立たなくなってきたといっても差し支えない。それほど生業は生活から離れたものになってきたといえるだろう。

 続く

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